心室内伝導障害(脚ブロック)の種類については、古くから右脚ブロックおよび左脚ブロックの2種類に分類されてきた。しかしながら、これらでは説明できない高度の左軸偏位例や右軸偏位例があり、その心電図所見の成因は長い間 不明のままに残されていた。1968年、Rosenbaumらは、左脚は左脚前枝および後枝の2本の脚枝(fascicles)からなると、その何れかの障害は前額面における著明な軸偏位を起こすとし、ヘミブロック(hemiblock)の概念を提唱し、長年にわたる臨床心電学における異常な軸偏位の解釈について明快な説明を与えた。
Rosenbaumらのヘミブロック学説は、左脚を前枝および後枝の2枝からなると考え、前額面における異常軸偏位を説明したが、私どもが日常臨床の場で経験する心電図の中には右側胸部誘導(V1,2)でR波が異常に高く、QRS波の前方成分の著明な増大を示す例があり、これらは従来は「心臓長軸周りの反時針式回転」として説明されてきた。
しかし、これらの例のほとんどでは、QRS軸の心臓長軸周りの著明な反時針式回転を起こす原因となるような胸郭ないし胸郭内臓器/組織の器質的異常を発見することができず、その成因として何らかの心室内興奮伝播過程の異常を考えなければ説明困難なことがいろんな経験例から明らかになってきた。
私どもは、右側胸部誘導で著明なR波増大(ベクトル心電図でQRS環前方成分増大)を示す例の剖検を行い、左脚中隔枝領域に著明な線維化を認め、これが本例のQRS波前方成分増大の原因であると考えられる例を経験した。
他方、臨床例でも興奮伝導障害(脚ブロック)以外には説明困難な右側胸部誘導におけるR波増大例を経験したことなどから、左室伝導系における中隔枝の存在とその臨床的意義を解明するべく、臨床的、形態学的(剖検および刺激伝導系の連続切片標本による組織学的検討)および電気生理学的検討を行い、左脚中隔枝ブロックが従来からの右脚ブロック/左脚ブロックとは異なる新しい型の心室内伝導障害(脚ブロック)であると確診するにいたっため、ここに私どもの左脚中隔枝ブロックについての研究を中心とし、併せて私どもの考え方を支持するような他の研究者の研究結果を紹介する。
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目次
番号 | タイトル |
1 | 左室伝導系 |
2 | QRS環前方偏位を伴う剖検例における刺激伝導系連続切片標本 による検討(中屋、高島) |
3 | 左冠動脈中隔枝攣縮による左脚中隔枝ブロックの出現(長谷川) |
4 | 労作狭心症例で運動負荷後に狭心症状ととも似出現した 一過性左脚中隔枝ブロック(石見,渡辺) |
5 | 左脚中隔枝切断による心外膜面興奮伝播過程の変化(中屋、井上) |
6 | 心室変行伝導を伴う心房性期外収縮におけるQRS波前方成分増大 |
7 | 心室伝導障害による説明が最も妥当であると考えられるQRS 波前方成分増大例 |
8 | 完全右脚ブロック(B型)兼左脚前枝ブロック例が高率に完全房室 ブロック/アダムス・ストークス症候群移行例が多いとの報告 (片山ら) |
9 | V1の結節性Rs型例が完全/高度房室ブロックに移行する例が 多いとの報告(杉本ら) |