8.完全右脚ブロック(B型)兼左脚前枝ブロックに完全房室
ブロック/アダムス・ストークス症候群移行例が多いとの報告
(片山ら)

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 (片山知之、藤原千冬、橋場邦武:左脚分枝ブロックを伴う完全右脚ブロックの臨床的研究:とくに完全房室ブロックとの関連について.心臓5:345,1973)

 完全右脚ブロックのベクトル心電図は、水平面図QRS環の回転方向によりA型およびB型の2型に分類されることは古くから知られていた。しかし、この両者の相違に どのような臨床的意義があるかについては、従来、あまり関心が払われていなかった。片山ら(1973)は、完全右脚ブロック+左脚前枝ブロック合併例において、ベクトル心電図水平面図QRS環の回転方向によりA型とB型の2群に分類すると、水平面図QRS環が時針式回転を示すB型右脚ブロック群では、正常と同様に反時針式回転を示すA型に比べて、完全房室ブロックやアダムス・ストークス症候群への移行率およびペースメーカー植え込みを必要とする例が有意に多いことを明らかにした。

 下図は、完全右脚ブロック+左脚前枝ブロック例で、水平面図QRS環が反時針式回転を示すA型および時針式に回転するB型のベクトル心電図を示す。

完全右脚ブロック兼左脚前枝ブロックのベクトル心電図の2型
上:完全右脚ブロック(A型)+左脚前枝ブロック、
下:完全右脚ブロック(B型)+左脚前枝ブロック。

 A、B図共に、QRS環終末部は右前方に向かい、刻時点の密集を示し、完全右脚ブロック所見と診断される。しかし、Aでは水平面図QRS環は、正常例と同様に反時針式に回転しているが(A型)、B図では正常とは逆に時針式に回転している(B型)。A,B図共に前面図QRS環は上方区画に描かれ、前面図QRS環は反時針式に回転している(左脚前枝ブロック)。

 完全右脚ブロック+左脚前枝ブロックで、右脚ブロックがA型およびB型を示す2群における完全房室ブロックへの移行およびアダムス・ストークス症候群の出現率を下表に示す。

ベクトル心電図
分類
例数 高度房室ブロック アダムス・ストークス
症候群
例数 例数 例数
A型 17 5.9 5.9
B型 42.9 28.6 71.4
中間型
25 16.0 8.0 24.0

 この表から分かるように、B型ではA型に比べて、高度房室ブロックおよびアダムス・ストークス症候群の頻度が著しく高率である。 この研究では、刺激伝導系の病理組織学的検討が行われていないため、組織学的裏付けはないが、A型とB型の相違点は、上図にみる如く、A型では水平面図QRS環が主として後方区画に描かれているが、B型では主として前方区画に描かれている。心室内伝導障害において、QRS環の前方偏位を起こす機序としては、左脚中隔枝障害が考えられる。 

 すなわち、B型においては、完全右脚ブロック、左脚前枝ブロックに加えて、左脚中隔枝ブロックの合併が考えられ、一層広範な心室内伝導系障害があることが予想され、高度房室ブロックないしアダムス・ストークス症候群に進展し易いものと思われる。

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