4.運動後に狭心症と共に左脚中隔枝ブロックが出現した労作性狭心症例(石見、渡辺)

トップ頁へ 心電図トップへ
左脚中隔枝ブロック目次へ 次へ

(本例は、石見善一、渡部哲也:心電図から臨床診断へ.中外医学社、東京、1969からの引用例である。)

 労作狭心症の61歳、男性例のマスター二重負荷試験前後の心電図で、一過性に右側胸部誘導の著明なST上昇、R波増大、小さいq波の出現を認めた例が報告されている(石見善一、渡辺哲也:心電図から臨床診断へ.p.212〜218,中外医学社、東京、1969)。このsmall q waveは、左脚前枝ブロックによる興奮伝播過程の変化によるものである。 

 下図(A)は、本例の運動負荷前の心電図である。QRS軸は左軸偏位を示すが、その程度は軽い。V1のP波は二相性で、陰性相の幅は広く、左房負荷所見と考えられる。ST-T部に異常はない。

A  運動負荷前心電図(61歳,男、狭心症)
運動負荷前の心電図(61歳、男性、狭心症)

 下図(B)は、Master二重負荷試験直後の心電図で、狭心症が誘発された。心拍数が増加し、左軸偏位が著明となり、左脚前枝ブロックが出現している。V1の二相性P波と幅広い陰性相は左房負荷の表現である。最も顕著な変化は, V2,3のR波の振幅増大、R/S比増大、V2-4のST上昇, V2-4におけるq波の出現、V5,6のST低下などの所見である。aVFでもST低下と陰性T波が出現している。

運動負荷直後の心電図(61歳、男、狭心症)
運動負荷直後の心電図 (61歳、男性、狭心症)

 下図は、負荷6分後(C)および10分後(D)の心電図である。負荷直後の心電図に比べて左軸偏位の程度は軽くなり、V2,3のR/S比は減少して負荷前の状態に近づき,V2,3のST低下は正常化している。しかし、V4,5に深い陰性U波が出現している。V4-6のST低下も持続している。

運動負荷6分後の心電図 運動負荷10分後の心電図
負荷6分後の心電図 負荷10分後の心電図

  本例は、上の運動負荷心電図(A-D)記録の約1カ月後に下図(E)に示すような前壁中隔梗塞を起こした。この心電図では、V1-3のQRS波がQS型で、著明なST上昇があり,V2-5に冠性T波、T, aVLに陰性T波を認める。

運動負荷心電図記録の1月後の心電図
運動負荷心電図(A-D)記録の約1カ月後の心電図

 本例は運動負荷により、狭心症の出現と同時に、右側胸部誘導のST上昇(貫壁性心筋傷害)、R波の増高・q波の出現(左脚中隔枝ブロック)を認め、同時に左脚前枝ブロックの出現を認めた。このようなQRS波の変化が一過性であることは、この変化が心室内伝導障害によるることを示している。  

この頁の最初へ
      次へ