5.特発性心筋症

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 特発性心筋症(idiopathic cardiomyopathy,ICD)と言う病気は、原因不明の心筋疾患で、次のように分類されます。
 T.肥大型心筋症
   1)肥大型閉塞性心筋症
   2)肥大型非閉塞性心筋症
 U.拡張型心筋症

特発性心筋症シエーマ
A:肥大型非閉塞性、B:肥大型閉塞性、C:拡張型心筋症

 肥大型心筋症は遺伝的な疾患で、通常であれば心筋肥大の原因とならないような刺激に反応して心筋が肥大するため、臨床的には原因不明の心筋肥大として表現されます。この際、心筋肥大の部位としては、心室筋全体が肥大する場合(びまん型)、心尖部が肥大する場合(心尖部肥大型)、心室中隔が特に肥大する場合(非対称性中隔肥大)、左室流出路が肥大する場合(閉塞型)などがありますが、本質は同様です。上に肥大型と拡張型心筋症の模型図を示します。

 下表は、特発性心筋症各型の死亡原因別の頻度を示します。

特発性心筋症分類 例数 死因 (%)
急死 心不全 合併症 その他 不明
拡張型 169 38.5 47.3 4.1 5.3 4.7
肥大型非閉塞性 42 50.0 19.0 9.5 11.9 9.5
肥大型閉塞性 36 52.8 5.6 8.3 16.7 16.7
247 42.5 36.4 5.7 8.1 7.3

特発性心筋症における急死の予防

 特発性心筋症における急死の予防は、病型により異なり、下記のように考えられます。

 1.病態把握と生活管理:
  まず、どのような病態であるかを把握することが大切です。そのため、心電図、運動負荷心電図(トレッドミル負荷、自転車エルゴメター負荷)、胸部X線写真、心エコー図、ホルター心電図検査を実施します。これにより、心不全、不整脈の種類と程度、運動耐用能力などを把握することが出来ます。肥大型では、心不全症状が無ければ、特に日常生活を制限する必要はありませんが、過激な運動や交感神経の著しい緊張を起こすような事態は避けるように指導することが必要です。 

 2.肥大型心筋症:
  この型は、拡張型に比べて死亡率は低く、長寿を全うされる方も多いのですが、死亡例の中には相対的に急死例が多いのが特徴的です。ことに若い人に急死例が多く、50歳を越えると急死例はほとんどないと言われています。心室細動は期外収縮を引き金として起こりますので、運動負荷心電図あるいはホルター心電図でどのような期外収縮が出ているかと言うことをチェックすることは極めて大切です。
 肥大型心筋症では心筋が肥大し、心筋の柔軟性が失われ、拡張障害を起こすことが病態の特徴であると考えられています。そのため、交感神経β受容体遮断薬(ベータブロッカー)あるいはカルシウム拮抗薬(Caブロッカー)等を内服させて、心筋興奮性(収縮力)を低下させる治療法が有効です。また、不整脈があれば、その種類に応じて抗不整脈薬を使用することも必要です。 

 3.拡張型心筋症:
  本型の死因としては心不全が最も重要ですから、心不全出現の有無に注意し、もしその徴候を認めたら、低Na食(1日食塩量5g前後)、血管拡張薬、利尿薬、強心薬、β遮断薬などを使用して心不全のコントロールを図ります。拡張型心筋症で心不全を合併するような例は、突然死も多いため、ホルター心電図で不整脈の有無を調べ、抗不整脈薬を使用する場合もあります。

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