2. ラムダ波を示して急性心臓死した例

トップページ 虚血性J波目次へ 早期再分極へ

 Rieraら (2004)は、夜間の失神発作を示すタイ国からの26歳の移民男性に下図のような奇妙な心電図波形を認めた。この例は外来受診当日、夜間に急死し、その急死に至る心電図経過がホルター心電図に記録されていた。(Riera ARP et al:J Electro- cardiol  37:101 ,2004)。

 症例;26歳、男性、タイ国からの移民
 主訴:夜間の失神発作
 家族歴:2名の急死例がある。

  病歴:1カ月前の夜間に「あえぎ呼吸」、失神発作があった。2日前に排便時に失禁を伴う短い失神発作が起こったため精査、治療を求めて来院した。
 
 現症、検査所見:意識清明。理学的所見、胸部X線写真、心エコー図:正常。心電図は下図に示すような異常な心室群波形を示した。心電図波形が奇妙な波形であったために、確認のため、最初の心電図記録の2時間後に再記録を行ったが、心電図所見は全く同様であった。

 精査のため入院を勧めたが、本人は不法入国者であるため医療保険に加入しておらず、経済的理由により入院を拒否した。そのため やむを得ず、当日はホルター心電図を装着して帰宅させたところ、翌朝、死亡状態で発見された。下図は外来初診時の心電図である。

 上の心電図では、第2,3,aVF,V6誘導の心室群は異様な波形を示している。すなわち、R波下行脚の中程から急に下降速度を落とし、急峻に低下して陰性T波に移行しており、あたかもギリシャ文字のlamda(ラムダ、Λ)に類似した波形を示している。

 本例は外来受診当日、ホルター心電図電極を装着して帰宅し、翌朝死亡状態で発見された。下図はその死亡時の心電図記録(ホルター心電図実時間記録)である。65/分の洞調律を示していたが、連結期が極めて短い心室性期外収縮の出現をトリガーとして、期外収縮の連発(短い持続の多形性心室頻拍)を生じ、すぐに心室細動に移行し、その後、心停止している。

 このRieraらの発表を受けて、Gussakらは 本例の心電図波形および心停止に至る過程が極めて特殊であるとして、従来から知られているBrugada症候群などとは異なった臨床的範疇に属する病態ではないかと考え、その特徴的心室群波形がギリシャ文字のlamda(ラムダ、Λ)に類似しているため、これをΛ波(ラムダ波)と呼ぶことを提唱した。

 Gussakらが、本例の心電図の特異的な所見としてあげたのは下記の2所見である(Gussak I et al:J Electrocardiol 37(2):105,2004)。

1.特徴的な心電図波形
  増大したJ波が、上昇したST部と一体化し、R波頂点から下降して陰性T波に移行する。R波頂点の近くに軽度のスラーを認め、QRS-J-ST-T波が一体化してギリシャ文字のlamda(ラムダ,Λ)に類似した波形を示す。
 
 2.心室細動、心停止への移行
  極めて短い連結期の心室性期外収縮をトリガー(引き金)として、持続が短い心室細動が出現し、その後、すぐ引き続いて致死的な心停止に移行する。

 このΛ波という表現は、未だ広く一般的に認められてはいないが、幅広く増大したJ波と上昇したJ点から急峻に下降するST部との融合所見の表現に適切な言葉であると考えられ、実際、このような心電図波形を示す例が相次いで報告されている。

 この頁の最初へ