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Brugada型心電図例およびQTc延長例を認めた遺伝子SCN5A単一異常例家系
Brugada症候群(16)で、遺伝子SCN5A異常により、単にBrugada症候群のみならず、QT延長症候群3型(LQT3)および遺伝性心臓伝導障害(Lenegre病)が起こることを説明しました。
SCN5A異常が、Brugada症候群を起こす分子機序についてはBrugada症候群(15)で既に述べました。それでは、この遺伝子異常がどうしてQT延長症候群を起こすのでしょうか? その説明は次のようになされています。すなわち、この遺伝子に異常があると、Naチャネルの速い不活性化障害のために、遅延電流が大きく流れ続け、そのためにNa電流の増加が起こるために活動電流持続時間が延長し、QT感覚の延長が起こると説明されています。
Bezzinaら(1999)
は、8世代にわたる大家系を構成する成人79人の遺伝子解析を行い、内43人(54.4%)にSCN5A
遺伝子の異常を認め、これらの本遺伝子異常carrier中にQTc延長例や右側胸部誘導ST上昇例が多発していることを確認したことを報告しています。
Brugada症候群とQT延長症候群が多発したSCN5A単一異常家系 (Bezzina,C.,et al:Circulation Res.85:1206,1999) |
また、下図はこの家系に属する家族構成員につて、SCN5A異常の有無と、心電図上のQTc延長および右側胸部誘導におけるST上昇度との相関を示します。SCN5A遺伝子異常がない例ではQTc延長例や右側胸部誘導ST上昇例は少なく、この遺伝子異常がある例(carrier)ではQTc延長例や右側胸部誘導ST上昇例が極めて高率に出現していることがわかります。
SCN5A異常を示す大家系での右側胸部誘導ST上昇度とQTcとの相関 (Bezzina,C.,et al:Circulation Res.85:1206,1999) |
また、本遺伝子異常例の中には、 QTc延長と右側胸部誘導ST上昇の合併例があることも報告されています。下図は、上図の家系図における症例6−27の初診時心電図です。心電図所見としては、PR間隔延長、軽度のQTc延長(530msec)を示していますが、最も顕著な所見は右側胸部誘導(V1,2)におけるcoved型の著明なST上昇で、典型的なBrugada型心電図を示しています。
Brugada型心電図とQT延長症候群の合併例(初診時心電図) V1,2でcoved型ST上昇を認める。QTcも軽度に延長している。 (Bezzina,C,et al:Circulation Res.85:1206,1999) |
下図は、本例の徐脈時の心電図です。QTcの延長がさらに著明になっており(530msce)、徐脈依存性のQT間隔延長が認められています。この状態で薬物負荷試験を行った際の心電図が、枠内に同時に示されています。プロカインアミド250mg静注前後の心電図です。controlとあるのが静注前、Procainamideとの記載のあるのが静注後です。静注前にはV2に軽度のsaddle-back型ST上昇を認めますが、procainamide静注後はV1のSTがcoved型のST上昇を示し、V2のsaddle-back型のST上昇が著明になっています。 この例も、QT延長症候群とBrugada症候群の心電図所見を共有する例であると思います。
Brugada型心電図とQT延長症候群の合併例(徐脈時) 右上の枠内はプロカインアミド250mg静注前後のV1-3誘導心電図で、 静注後にはV1, 2のST上昇が著明になっている。 |