Brugada症候群16タイトル

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Brugada 症候群、先天性QT延長症候群(LQT3)、Lenegre病との関連

 前頁でBrugada症候群が遺伝子SCN5Aの異常により起こる場合があることを述べ、その臨床的意義についての研究を紹介しました。Brugada型心電図、ことにsaddle-back型は、私たちも日常臨床でしばしば経験します。しかし、欧米の報告に見るような濃厚な突然死を示す例が多発する家系を私は経験したことがなく、また、我が国ではそのような例の報告はあまり多くありません。またBrugada症候群の成人での頻度は0.1%, 小児では0.01%と、小児における頻度は成人の1/10前後であることが報告されています。


 しかし、Brugadaらの本症候群について最初の報告(1992年)は、8例についての詳細な報告ですが、内3例は小児例です。2歳男児、2歳女児、8歳女児例です。

 Brugadらは、その著書の中で、彼らが本症候群の最初の例を経験したのは1986年、ポーランド人の3歳の少年でした。意識喪失発作の頻発を主訴とし、発作のたびごとに父親が蘇生法を実施し、生命を回復していたとのことです。その経過中に、この男児の妹である2歳の女児が心停止の発作を反復して起こすようになり、ついに急死したとのことです。この際、この女児はペースメーカーを移植されており、アミオダロンの内服を行っていましたが、これらの治療法は効果がありませんでした。 この2人の子供の心電図を下図に示します。両者ともに典型的なcoved型の心電図を示しています。
3歳女児のBrugada症候群の心電図(Antzelevitchら) 2歳女児のBrugada症候群の心電図(Antzelevitchら)
3歳、男児、頻発する意識喪失発作 2歳,女児、頻発する意識喪失発作
Antzelevitch,C.,Brugada,P.,et al.:The Brugada Syndrome, Futura, New York, 1999

  このような例を経験すると、誰しもBrugada症候群における遺伝の関与、および特異的な心電図所見と本症候群との相関に思いを致すと思います。Brugada症候群に遺伝の関与があるとなると、すぐ思い起こすのが先天性QT延長症候群(LQT)です。

 LQTには現在8種類あることが明らかにされています。Romano-Ward症候群が6型(LQT1〜LQT6)とJervell-Lange Nielsen症候群が2型(JLN1, JLN2)で、計8型となります。これらの内、LQT3は Brugada症候群と同じ遺伝子SCN5A の異常により起こることが知られています。

 実際、LQT3とBrugada症候群とが同一家系で認められたとの報告や、同一例でLQT3とBrugada症候群の両者の特徴的心電図所見を湿す例などが報告されています。

 さらに、このSCN5A遺伝子の異常例では、先天的な心室内興奮伝導障害を示す例があることも報告されています。これは いわゆるLenegre病と呼ばれるものです。私は、従来、Lenegre病というのは、特発性両脚壊死症であると理解していましたが、もっと範囲が広く、先天的に房室伝導障害を起こしたり、先天的に脚ブロックを示す例などを含めた報告が多くあります。


 下図は、SCN5A遺伝子のαサブユニットの構造と、Brugada症候群、LQT3, Lenegre病の表現型(臨床所見を示す例)において異常が見つかった部位を示します。興味深いことは、この遺伝子の異常を示す例の中にはLenegre病(isolated conduction disease)とLQT3との合併例、あるいはLenegre病とBrugada症候群との合併例も認められています。
Brugada,LQTS,Lenegreの多発を認めたSCN5A変異家系
SCN5A遺伝子異常を示す同一家系内にBrugada症候群、先天性QT延長症候群3型
(LQT3)および遺伝性伝導障害(Lenegre病)の単発・多発を多く認めた一家系

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