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1.右脚ブロック時のベクトル心電図の成り立ち
右脚ブロックの際の心室中隔の興奮は、正常と同様に主として左脚により行われ、その興奮は左室側→右室側に向かう。次いで左室自由壁が興奮し、右室自由壁は最も遅れて興奮する。そのために心室中隔の興奮を表すQRS環初期ベクトルは正常と同様に右前方に向かい、それに続くQRS環主部は左方に向かう。QRS環終末部は遅れて起こった右室興奮を反映して刻時点の密集を示しつつ右前方に向かう。
2.右脚ブロックのベクトル心電図の特徴
右脚ブロックのベクトル心電図の特徴は下記の如くである。
1)
水平面図QRS環終末部は著しい刻時点の密集を示して右前方に向かう。この右前方に向かう伝導遅延部を終末付加部 (terminal appendage,
terminal
tongue)と呼ぶ。この終末付加部はV1の誘導軸の(+)側に投影されるため、V1のQRS波形正常中隔ベクトルの表現であるr波に続いて、スラーを示す幅広いR′波を描き、全体としてrsR′型を示す。またこの終末付加部は、aVRでは幅広いlate
R波、T,V5,6ではスラーを示す幅広いS波として記録される。
下図はベクトル心電図水平面図とV1誘導心電図波形との関係を示す。
完全右脚ブロックの水平面図QRS環とV1波形 との相関 |
2) QRS環主部はほぼ正常と同様に描かれる場合が多いが、時に正常よりも前方に偏位する。
3)
水平面図QRS環の回転方向は、正常と同様の反時針式回転を示す例がほとんどであるが(A型、90%)、一部(B型、10%)の例では時針式に回転する。
4)
T環は左後方に向かい、QRS環終末付加部と反対方向に向かう。
3.右脚ブロックのベクトル心電図所見
水平面図:QRS環起始部は右前(時に左前)方に向かうが、直ちに左方に転じ,左側方(前または後方)にあるQRS環主部に移行する。QRS環求心脚は正常例に比べて前方に偏位するが、なお後方にとどまる例が多い。QRS環主部の回転方向は90%の例では正常と同様の反時針式回転を示すが、約10%では時針式に回転する。最も特徴的所見はQRS環終末部が著しい刻時点の密集を示しつつ右前方に突出する所見である。この所見は終末部遅延(terminal
conduction delay)、終末付加部 (terminal appendage), 終末舌状部 (terminal tongue)
などと呼ばれ、遅れて起こった右室興奮を反映している。
左側面図:QRS環は、通常、複雑な形
(bizarre configuration)
を示す。起始部は前上(時に前下)方に向かい、QRS環主部は下方にあり、正常よりもやや前方に偏する。終末部は前方に向かう。
前面図:最大QRSベクトルは左下方にあり、終末部は右方に向かい刻時点の密集がある。QRS環の回転方向は種々である。
STベクトル:右後上(下)方に向かう。
T環:水平面図、左側面図で時針式回転を示す例が多い。T環はQRS環終末付加部の反対方向、すなわち左後方に向かう。
4.右脚ブロックのベクトル心電図の実例
下図(A)は、合併症がない完全右脚ブロック例(67歳、男性)のベクトル心電図である。水平面図でQRS環起始部および主部は正常と同様に描かれているが、終末部は刻時点の密集を示しつつ右前方に向かい、終末付加部(terminal
appendage) を形成している。T環は終末付加部と反対方向(左後方)に向かう。
ベクトル心電図診断:右脚ブロック。
A | |
完全右脚ブロックのベクトル心電図(67歳、男性) |
下図(B)も合併症がない完全右脚ブロック例のベクトル心電図である。
水平面図でQRS環起始部はわずかに右前方に出て、反時針式に回って左前方に描かれ、QRS環終末部は著しい刻時点の密集を示しつつ右前方に向かい、興奮伝導遅延を示す終末付加部を形成している。水平面図QRS環主部はやや前方成分の増大を認める。
側面図QRS環は複雑な形を示す(bizarre
configuration)。 右脚ブロックの際には、側面図QRS環はこのような複雑な形を示す例が多い。T環は終末付加部と反対方向(左後方)に向かう。
前面図QRS環では右方成分がやや増大し、終末部に著しい刻時点の密集を認める。
ベクトル心電図診断:右脚ブロック。
B | |
完全右脚ブロック例のベクトル心電図 (Type A) |
下図(C)も完全右脚ブロック例のベクトル心電図であるが、A,B例とは異なり、水平面図QRS環が時針式に回転している。このような右脚ブロック例はType Bと呼ばれ、完全右脚ブロックの10%近くに認められる。これに対し,図A,Bのベクトル心電図はType Aに属する。
C | |
完全右脚ブロックのベクトル心電図 (Type B) |
Type Bにおいて、水平面図QRS環が時針式に回転する機序は未だ明らかでないが、左脚中隔枝ブロックが合併している可能性が考えられる。その根拠については両脚ブロックの項で述べる。
右脚ブロック兼左脚前枝ブロック例を、水平面図QRS環の回転方向により反時針式回転群(A群)および時針式回転群(B群)に分けて予後を調査すると、後者では前者に比べて、完全房室ブロック、高度房室ブロックへの進展例が多く、また永久ペースメーカー植込みを行った例が統計的に有意に多いとの研究がある。
下図(D)に、完全右脚ブロック兼左脚前枝ブロック(両脚ブロック)のベクトル心電図の2型を示す。A型では水平面図QRS環が正常と同様に反時針式に回転しているが、B型では水平面図QRS環が時針式に回転している。
完全右脚ブロック兼左脚前枝ブロックの2型 A:水平面図QRS環が反時針式回転を示す。 B:水平面図QRS環が時針式回転を示す。 |
下図は、完全右脚ブロック兼左脚前枝ブロックの2群〔水平面図QRS環の反時針式回転群(A群)および時針式回転群(B群)〕における予後の比較成績を示す。B群(B型)では,A群(A型)に比べて高度房室ブロックへの進展例、あるいはペースメーカー植込み例の頻度が統計的に有意に多い。
完全右脚ブロック兼左脚前枝ブロックの2群間の予後比較 A群:水平面図QRS環が正常と同様に反時針式に回転する群、 B群:水平面図QRS環が時針式に回転する群。 |