第7章 心房負荷のベクトル心電図

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正常および諸種病態の際のベクトル心電図P環を下図に示す。

 A:正常
 B、C:左房負荷、
 D:右房負荷、
 E:両房負荷

 正常P環(A)はあまり大きくなく、前・側面図で垂直位をとり、水平面図で小さい。回転方向は3投影面共に反時針式回転を示す例が多い。
 左房負荷(B、C)では、水平面図でP環は左後方に向かう。前面図ではB図のようにX軸の(+)側に一辺を向けた三角形状波形を示す場合と(B図)、大きく垂直位をとって右房負荷とまぎらわしい場合(C図)とがある。
 右房負荷(D)では、P環は前・側面図で著しく大きくなり、垂直位をとり、前方に突出する。
 両房負荷(E)では、側・水平面図で、前半は前方に突出し、後半は後方に突出し、P環の幅が増大する。

1.左房負荷
 下図は僧帽弁狭窄症例のベクトル心電図である。上段は低い増幅率の記録で、P、QRS、T環の全てが示されている。下段は増幅率を上げた記録で、P環に目標をおいて記録した。上段のベクトル心電図水平面図では、QRS環の左方成分が小さく、QRS環後半は右後方に著明に偏位し、心臓長軸周りの時針式回転を示し、軽度の右室肥大を反映している。前面図および左側面図ではQRS環は立位をとっている。この程度の増幅率でも本例ではP環を明瞭に観察できる。下段の高増幅率記録では水平面図および左側面図でP環は著明に後方に偏位している。

 一般に左房負荷の際には水平面図に特徴的所見が認められ、大きく不規則なP環が左後方に偏位する所見を認める。P環の回転方向は3投影面共に反時針式のことが多いが、前面図および左側面図ではしばしば時針式または8字型回転を示す。

2.右房負荷
 最大Pベクトルは著しく大きくなり、左前下方に向かう。P環の回転方向は3投影面共に反時針式回転を示す。下図はファロー四徴症の強拡大ベクトル心電図で、大きくなったP環が水平面図および左側面図で著明に前方に偏位している。

3.両房負荷
  両房負荷の際には、P環前半は右房負荷の特徴を反映して前方に突出し、後半は左房負荷を反映して後方に突出する。下図は肺高血圧を伴う僧帽弁狭窄症のベクトル心電図で、上段は弱拡大、下段は強拡大の記録である。下段の左側面図において、P環の幅が著しく増大し、前半は前方に、後半は後方に突出している。上段の弱拡大記録において、QRS環は立位をとり、右方成分の面積を増し、水平面図でも前方成分の増大、左方成分の減少を示し、QRS環後半は著明に右後区画に向かい、右室肥大(軽度)所見を示している。

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