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第50例
症例: 65歳、男性
基礎疾患:高血圧
質問:
1.リズムは?
2.QRS軸は?
3.この心電図の診断は?
4.この心電図にはST−T波の異常があるが、一次性変化か、二次性ST−T変化か?
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第50例解説
1.リズムは? :正常洞調律
2.QRS軸は?:左軸偏位
3.この心電図の診断は?
QRS間隔は0.12秒を超え、V5,6のQRS波の頂点の近くにスラーないし結節があり、一見、完全左脚ブロックを思わせます。しかし、注目して頂きたい所見は、標準肢誘導, V5, 6でPR間隔が著しく短かく,ほとんど
PRsegment を認めることができません。
また、第1,第2誘導、V5において、QRS波起始部が斜めにゆっくり上昇してデルタ波を形成しています。この所見からこの心電図はWPW症候群と診断されます。QRS波はV1で陰性ですからRosenbaum分類B型のWPW症候群で,副伝導路は左室基部にあると考えられます。
4.この心電図にはST−T波の異常があるが、一次性変化か、二次性変化か?
この心電図をB型WPW症候群と考えた場合、本例の心電図でV3,4にみるような深い陰性T波を見ることはありません。ことにこれらの陰性T波は左右対称的で「冠性T波」の特徴を示しています。一般的に、WPW型心電図の場合、ST−T部の所見から冠不全ないし心筋障害の有無を判断してはいけないといわれています。
しかし、本例では、深い冠性T波を示す所見から、通常のWPW型心電図とは異なりますので、単にWPW型心電図に伴う二次性ST−T変化ではなく、「心室gradientの変化を伴う一次性ST−T変化」である可能性が強いと考え、他の臨床検査(血清酵素測定、心エコー図、タリウム心筋シンチグラフィーなど)を行い、心筋梗塞などの合併の有無について検討することが大切です。