第40例 Brugada型心電図(saddle-back型)
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第40例
症例:35歳、男性
臨床的事項:特に循環器系の自覚症状もなく、元気に勤務している。約1週間前の定期身体検査で心電図を記録し、下図に示す心電図を得たが、健診施設担当医はこの心電図を「正常範囲」と診断した。
質問:
1.リズムは?
2.QRS軸は?
3.QRS波の所見は?
4.ST-T部の所見は?
5.本例の心電図診断は?
6.本例で危惧されることはどのようなことか?
7.治療は必要か? また、今後の指導としてどのようなことを助言するべきか?
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第40例解説
1.リズムは?:洞徐脈
2.QRS軸は?:正常軸
3.QRS波の所見は?
V1,2にR’波があり、一見、不完全右脚ブロックに類似した波形を示しています。しかし、
R'波の終末部はsharpではなく、この点が不完全右脚ブロックとは異なっています。
V1、2ではST部の明らかな上昇を認めます。これらの所見はBrugada型心電図の
saddle-back typeに典型的です。
4.ST-T部の所見は?
aVR, V1誘導でT波は陰性ですが、その他の誘導ではT波は陽性で、T波異常は認められません。ST部は胸部誘導では全般的に上昇しており、ことにV2, 3
のST上昇が 著明です。
5.本例の心電図診断は?
1) 洞徐脈
2) 正常軸
3) Brugada型心電図(saddle-back type)
6.本例で危惧されることはどのようなことか?
Brugada症候群は、特発性心室細動の基質(基礎疾患)として広く知られており、 我が国では欧米諸国よりも多く認められており、若年者急死症候群(いわゆるポックリ病)の原因疾患として知られて います。
従って、本例においても失神, faintnessなどの病歴がないかどうか、また 家族に突然死、失神発作を有する者がないかどうかを病歴聴取により確かめることが重要です。もし、失神発作の病歴があり、心室細動が心電図的に確認されているよ
うな例であれば、体内植えこみ式除細動器(ICD)植えこみの適応となります。
7.治療は必要か? また、今後の指導としてどのようなことを助言するべきか?
Brugada症候群の心電図には、coved typeとsaddle-back typeの2型があり、前者は心室細動発生の危険が著しく高いと考えられています。Brugada症候群の心電図的特徴の1つに、心電図 の著しい変動性があり、ある時点でsaddle-back型であったものが、他の時点で心電 図を記録するとcoved型に変化する例も多く報告されています。
従って、本例でも心電 図的に経過を観察することが必要です。しかし、saddle-back型はcoved型に比べる と予後良好で、心室細動への移行率は著しく少ないと考えられているため、今、直ち
に積極的に治療する必要はありません。 しかし、このような例に抗不整脈薬を投与すると, saddle-back型からcoved 型に変化し、心室細動に進展する例が少なからずあることが指摘されているため、抗不整脈使用の際には慎重な態度が必要です。
(註)Brugada症候群については、i遺伝性不整脈→Brugada症候群で詳しく述べていますので御参考にして下さい。