第39例 両脚ブロック(右脚ブロック+左脚前枝ブロック)、冠不全
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第39例
症例:74歳、男性
臨床的事項:年来、高血圧と糖尿病があり、治療を受けている。しかし、現在の血圧
はなお160/96mmHgで、糖尿病のコントロール状態もヘモグロビンA1c値が7.3%と不十分な状態である。
下図は本例の心電図である。
質問:
1.リズムは?
2.QRS軸は?
3.QRS間隔は?
4.QRS波形の特徴的所見は?
5.ST-T部に異常所見があるが、これは一次性ST-T変化か?あるいは、二次性ST-T 変化か?
6.以上を総合して、本例の心電図診断は?
7.本例は、今後の経過観察において、どのようなことに注意して経過を観察するべきか?(本例の予後を考える上で、どのような病態への進展を危惧するべきか?)
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第39例解説
1.リズムは?:洞調律。
2.QRS軸は?:著明な左軸偏位。
3.QRS間隔は?:≧0.12秒ですから、完全脚ブロックがあります。
4.QRS波形の特徴的所見は?
V1のQRS波形がrsR' 型を示し、V1での心室興奮時間がV6のそれに比べて遅延しているので、完全右脚ブロックと診断されます。V2のQRS波形もRSR'型を示しています。このV1, 2のR'波、第1誘導、、V5, 6のS波, aVRのlate
R波は、何れも遅れて 起こった右室興奮を反映しています。
肢誘導が著明な左軸偏位を示していますが、これは左脚前枝ブロック (left anteriro fascicular block, LAFB)の所見です。V1, 2のT波が陰性ですが、遅延した
右室興奮を表す波の反対側に向かう場合(例えば、V1,V2のlate R波が陽性であるか ら、これらの誘導で陰性に描かれる場合)は心室内興奮伝導異常(脚ブロック)に伴
う変化ですから二次性変化であり、心筋傷害の反映ではありません。
しかし、第1、2誘導;aVF誘導、V4-6のST低下; V5, 6の−/+型の二相性T波は異常 所見で、一次性ST-T変化と考えられ(右室興奮を表すS波と同方向の偏位を示してい るため)、心筋傷害(冠不全)の表現です。 本例は、完全右脚ブロック兼左脚前枝ブロック、すなわち両脚ブロック (bilateral bundle branch blcok, BBBB)と診断されます。
5.ST-T部に異常所見があるが、これは一次性ST-T変化か? あるいは二次性ST-T 変化か? 上述の理由により、一次性ST-T変化で、心筋傷害の反映です。
6.以上を総合して、本例の心電図診断は?
従って、本例の心電図診断は下記のようになります。
1) 洞調律
2) 左軸偏位
3) 両脚ブロック(完全右脚ブロック+左脚前枝ブロック)
4) 冠不全
7.本例では、今後の経過観察において、どのようなことに注意して経過を観察するべきか?(本例の予後を考える上で、どのような病態への進展を危惧すべき か?)
本例は両脚ブロックがあるため、完全房室ブロックを起こしやすい状態にあると 考えられます。この型の両脚ブロックから完全房室ブロックないしアダムス・ストー
クス症候群への移行率は10−17%と報告されています。
従って、本例の経過観察 に際しては、失神発作, faintnessなどの脳血流障害による症状が出現しないかどう かに注意し、少なくとも1年に1度は心電図、ホルター心電図などによる経過観察を 行う必要があります。また、高血圧、糖尿病、高脂血症などの基礎疾患があれば、そ れらをきちんと治療して正常化を図っておかなくてはなりません。