第38例 左室肥大+完全右脚ブロック

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症例:44歳、男性
臨床診断:高血圧
臨床的事項:数年前から高血圧を指摘されている。外来初診時の血圧は160/95mmHg。 自覚的愁訴はない。血清脂質正常。
下図は本例の心電図である。

質問:
1.リズムは?
2.QRS軸は?
3.QRS間隔は?
4.QRS波形の異常は?
5.ST-T変化は?
6.以上を総合して心電図診断は?
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第38例解説:

1.リズムは?:洞調律です。

2.QRS軸は?:
  主QRS波は左軸偏位傾向を示しています。QRS波終末部(右室興奮を反映する起電力ベクトル)のQRS軸は右軸偏位を示しています。

3.QRS間隔は?:0.12秒を超えており、完全脚ブロックです。

4.QRS波形の異常は?
  V1のQRS波はrsR' 型を示し、V1とV6の心室興奮時間を比較すると、V1のそれが V6よりも長く、右側胸部への興奮到達の遅延があるため、完全右脚ブロックと診断さ れます。心室興奮時間とは、QRS波の起始部からR波の頂点までの時間で、興奮波がその電極直下に到達する時間を近似的に反映すると考えられています。

 RSR'、 RSR'S' 型などの波形を示す場合には、振幅が大きい陽性波(上向きの波)の頂点までの時間を計測します。 第1誘導のS波, aVRのlate R波、V4-6のS波は幅が広く、興奮伝導遅延を反映 して著明なスラーを示しています。これらは、右脚ブロックのために遅れて生じた右室 興奮の表れです。 V4, 5のQRS波は著明な高電圧を示しています。RV5の正常上界は30mm、RV6の正常上界は23m

 mで、この値を越える場合には病的高電圧があると考えられ、左室肥大を示唆 する所見です。本例のRV5の振幅は32mmですから、上記の正常上界を超え ており、左室肥大の合併があると診断されます。

5.ST-T変化は?
  V1,2のT波は陰性です。完全右脚ブロックの際のTベクトルの方向は、右脚ブロックにより遅れて興奮した右室ベクトルと反対方向に向かいます。従って、V1, 2ではR’波が陽性ですから、その反対方向、すなわち陰性に描かれているのは、QRS 波の変化に伴う二次性変化であり、心筋傷害に起因する一次性変化ではなく、心筋傷害の合併は考えられません。

6.以上を総合して心電図診断は?
  以上を総合して、本例の心電図診断は「完全右脚ブロック+左室肥大」と診断さ れ、固有心筋(作業心筋)の傷害所見は認められません。

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