第35例 房室接合部性期外収縮、変行性心室内伝導

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第35例解説

 不整脈の分析の際には、P波が最も見やすい誘導で分析を進めることが大切です。本例では第3誘導で最もP波が認め易いため、第3誘導で検討を進めます。赤鉛筆で矢印を付けたところは、陰性P波を認める部位です

 第2,第3,aVF誘導で陰性のP波を逆伝導性P波と呼び、focusが洞結節ではなく、房室接合部中枢 (atrioventricular junctional tissue)にあることを示しています。 房室接合部性中枢というのは、房室結節、ヒス束およびその周辺をさす総括的な呼称です。

 以前は、このような部位から出た異所性興奮を全て房室結節性期外収縮と呼 んでいました。しかし、房室結節には異所性興奮を起こすペースメーカー細胞 は少なく、むしろ房室結節と右房との接合部、冠静脈洞、ヒス束などの方がペース メーカー機能は高く、かつこれらの部位から発生した異所性興奮(期外収縮、発作性 心頻拍)をP波の形のみから詳細に鑑別することは極めて困難であることが実験 的に証明されました。

 そのため最近は房室結節性(結節性)、冠静脈洞性などの表現を使 用せず、すべてを「房室接合部性」と総括的に呼んだ方がよいとの勧告が出され、世 界的にもそのような表現が一般的に使用されています。

 洞性期外収縮、心房性期外収縮、房室接合部性期外収縮などを、ひっくるめて「上室性期外収縮」と表現する場合がありますが、これらは鑑別可能ですから、出来るだけ 洞性期外収縮、心房性期外収縮、房室接合部性期外収縮などと具体的に診断するべきである と思います。  

 房室接合部性期外収縮に対しては、第2誘導に青の色鉛筆で矢印を付けておきまし た。 1、3,4と記した期外収縮のQRS波は、基本リズムのQRS波と比べて軽度の変形を示しており、2と記した期外収縮の心室群は著明な変形を示し、一見、心室性期外収縮のような外観を示しています。 

 これらは、先行収縮の不応期のために心室内伝導が障 害されたためで、心室内変行伝導(aberrant ventricular conduction)とよばれています。一種の機能的な脚ブロックの表現であるとも考えられます。  以上から、本例は房室接合部性期外収縮の多発例で、一部に変行性心室内伝導を認め る例であると診断されます。  上室性期外収縮は良性ですから、本人が頻脈に伴う愁訴を訴えない限り治療の必要 はありません。

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