第32例 心房性期外収縮、心室性期外収縮、陳旧性下壁梗塞

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第32例:78歳、女性
主訴:呼吸困難
臨床的事項:血圧 202/108mmHg。
下図は本例の心電図である。

質問:
1.基本リズムは?
2.この心電図の不整脈の診断は?
3.QRS軸は?
4.本例の臨床診断は?

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1.基本リズムは?
    上の心電図で「a1」と記しているのが本例の基本リズムです。この「a1」はPP間隔が1.2秒ですから、洞頻度 50/分の洞徐脈です。
 
2.この心電図の不整脈の診断は?
    2種類の不整脈が認められます。第2心拍では、変形したP波の早期出現を認めますから心房性期外収縮です。この心房性期外収縮の変形したP波の特徴はV2で最もよく見ることが出来ます。b+C<2a1ですから非代償性休止期を持っており、この点も心房性期外収縮(上室性期外収縮)に一致する所見です。
 
   第4心拍は、変形した心室群の早期出現を認めており、心室性期外収縮と診断されます。肢誘導では、a2はa1と近似していますので、間入性心室性期外収縮と診断されます。胸部誘導を記録した時点においては、肢誘導を記録した時点よりも心拍数が多くなっていますが、胸部誘導の第4心拍に認められる心室性期外収縮は代償性休止期を持っており、恐らくは完全代償性心室性期外収縮と考えられます。
 
3.QRS軸は?
  QRS軸は著明な左軸偏位を示しています。しかし、横位心の際にみるような単純な左軸偏位ではなく、本例のQRS軸の左軸偏位は第2,3誘導のQS波(あるいはr波の著明な減高)により作られており、明らかに病的所見です。
 
4.本例の臨床診断は?
  基本リズムの心電図波形に注目して下さい。第2誘導のQRS波はQS型を示しています。第3誘導,aVF誘導のQRS波形もQS型ないし非常に小さいr波を伴うrS型を示しています。この左軸偏位を左脚前枝ブロックと診断するには、これらの誘導のQRS波に著明な結節やスラーを認めません。

 また第2,3,aVF誘導でT波は左右対称的な陰性T波を示しており、冠性T波の特徴を示しています。これらの基本収縮の心室群の波形の特徴から、本例は陳旧性下壁梗塞があると診断されます。従って、本例に見る期外収縮、ことに心室性期外収縮は基礎疾患である下壁梗塞と関連があると考えられます。
 
 もう一度、心室性期外収縮の波形に注目して下さい。第1誘導で心室性期外収縮は陽性に描かれており、このQRSベクトルは右→左方向向かっており、期外収縮のfocusは右方にあると考えられます(右室ないし心室中隔)。

 aVF誘導における心室性期外収縮の QRS波は著明な陰性に描かれており、このベクトルは下→上の方向に向かっています。すなわち、期外収縮の発生源は下壁ないし心尖部にあります。V1では、期外収縮のQRS波は主として下向きに描かれているので、この期外収縮によるベクトルは前→後方向に向かっています。

 これらを総合すると、本例の心室性期外収縮のQRSベクトルは右前下方から左後上方に向かっており、期外収縮の発生源は右前下壁(右室下壁前方、あるいは心室中隔前方の下壁よりの部位)から出ていると考えられ、梗塞部位と近いと考えられます。

 そのような意味から、本例の心室性期外収縮は心筋梗塞と関連して起こっていると考えられますから、ホルター心電図(24時間心電図)を記録して、悪性不整脈(連発性、多源性など)を伴っていないかどうかを検証することが大切です。

 心室性期外収縮の発生部位を考える際には、各誘導の意義を考えながら判断します。その基本原則は下記の如くです。
  1)第1誘導, aVL, V5, 6誘導で陽性: 右→左に向かう (focusは右方にある)。
  2)第2,3,aVF誘導で陽性: 上→下に向かう(focusは上方にある)。
  3)V1, 2で陽性: 後方→前方に向かう (focusは後方にある)。
  4)上記の1)ー3)と極性が逆の場合は、それぞれの反対側を考える。


 従って、本例の心電図診断は下記の通りです。
 1.洞徐脈
 2.左軸偏位
 3.心房性期外収縮
 4.心室性期外収縮
 5.陳旧性下壁梗塞

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