第28例 電極装着ミス、左脚前枝ブロック

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第28例解説

症例:56歳、男性
臨床診断:高血圧、糖尿病。
胸部X線写真は心臓、肺野共に正常(心臓の位置異常はない)。
添付file(case-28a)は本例の心電図である。

質問:
1.この心電図は正しく記録されているか?
2.もし誘導の間違いとすれば、どのような誘導の間違いか?
3.正しく電極が装着された場合における本例の心電図診断は?

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第28例解説

 四肢誘導の電極を付け間違えても胸部誘導の心電図波形は正しい波形が記録されます。 これは、胸部誘導では、不関電極(遠隔電極)として、四肢を高い抵抗で1点に集めた部位(中央電極)を用いているためで、各肢への電極を付け間違えても、この電極の電位はキルヒホフの第一法則に従ってゼロと考えられます。このような誘導がゼロ電位単極胸部誘導(あるいはたんに単局胸部誘導)と呼ばれる所以です。

 洞調律である限り、V5,6のP波は常に陽性です。 第1誘導およびV6誘導は共に立体的心起電力を左→右方向に見る誘導ですから、第1誘導とV6誘導のP波の極性は大体 同一です(例外:左房調律の一部)。  

 本例では、V6のP波は陽性であるのに、第1誘導のP波が陰性で、両者の波形が異なっています。 この場合、胸部誘導のP波の極性が正しいから、第1誘導の電極の付け間違いがあります。 すなわち、右手と左手の電極の付け間違いです。  

 従って、第1誘導の正しい波形は前回お送りした心電図を上下逆にした形(すなわ ち 、鏡に映った形, mirrow pattern) を示しています。  単極肢誘導について言えば、右手と左手の電極の付け間違いですから, aVRが実はaVL誘導で, aVLが実はaVR誘導と言うことになります。aVFは正しく記録されています。  

 標準肢誘導については、正しい記録は、第1誘導については、前回お送りした心電 図の 第1誘導の波形を上下逆にした波形です。そして、前回お送りした心電 図の第2誘導が実は第3誘導、また第3誘導が実は第2誘導と言うことになります。  そのような波形を考えますと、本例のQRS軸は著しい左軸偏位を取っており、左脚前枝 ブロックと診断されます。 

 下図は、正しい位置に電極を着け直して記録した心電図です。

  以上を総合して、本例の心電図診断は下記の如くなります。
   1) 右手電極と左手電極の付け間違い
   2) 正常洞調律(洞徐脈の傾向)
   3) 著明な左軸偏位
   4) 左脚前枝ブロック  
 
 このように電極の付け間違いがあっても、実際上は心電図診断を下すことが出来ます 。しかし、電極の付け間違いは言うなれば「欠陥商品」です。直ちに正しい位置に電極を装着して心電図を取り直さなくてはなりません。

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