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 この項は内容が多岐にわたりますので、目次を下表に示します。
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目次
 1) 完全右脚ブロックの特徴的心電図所見
 2) 右脚ブロック心電図の実例
 3) 右脚ブロックと心筋梗塞、心室肥大合併例の心電図
   A. 右脚ブロックと心筋梗塞合併時心電図
   B. 右脚ブロックと心室肥大合併時の心電図
 4) 右脚ブロックの臨床的意義
   (1) 基礎疾患がない例における完全右脚ブロック
   (2) 基礎疾患がある完全右脚ブロック
   (3) Brugada症候群の1所見としての右脚ブロック様所見
   (4) 両脚ブロック信文書兼としての右脚ブロック
 5) 不完全右脚ブロックの臨床的意義
   A. いわゆるcrista pattern(secondary r' pattern)
   B. 右室収縮期性負荷心電図形成の中間過程としての不完全右脚ブロック類似所見
   C. 右室拡張型性負荷所見としての不完全右脚ブロック
 6) 不完全右脚ブロックとsaddle-back型Brugada心電図との鑑別--------------------------------------------------------------

1.右脚ブロック(right bundle branch block,RBBB)の心電図所見
 
 1)完全右脚ブロックの特徴的心電図所見を
下記に示します。
   (1)QRS間隔≧0.12秒
   (2)V1のQRS波のrsR’型(時にっR’型、R型)、aVRのlate R波、V5,6の幅広いS波: これらは遅れて起こった右室興奮を反映します。
   (3)右側胸部誘導での心室興奮時間は左側胸部誘導に比べて遅れます。
   (4)V1(2)のT波の陰性化。  

  2)右脚ブロックの心電図の実例
 
 下図は完全右脚ブロックの心電図の実例を示す。QRS間隔≧0.12秒、V1はrsR’型で、TV5,6でS波の幅が広い。aVRにlateにR波を認める。これらは遅れて起こった右室興奮を示す。。右側胸部誘導で、左側胸部誘導に比べて心室興奮時間が遅延している。 ST-T部は正常で、心筋障害所見を伴つていない。 
完全右脚ブロック

 下図は、不完全右脚ブロックの心電図の一例を示す。心電図波形は完全右脚ブロックに類似するが、QRS間隔は0.12秒より短い。

不完全右脚ブロック

  3)右脚ブロックと心筋梗塞、心室肥大合併時の心電図
  
  A.右脚ブロックと心筋梗塞合併時の心電図
  心筋梗塞の代表的心電図所見は、異常Q波、ST上昇、冠性T波(左右対称的な陰性T波)を示すことですが、右脚ブロックが合併してもこれらの所見は認められます。
    
  B.右脚ブロックと心室肥大合併時の心電図
     (1)左室肥大との合併:右脚ブロックを伴わない例と同様に、一般的な左室肥大診断基準を適用できます。
     (2)右室肥大との合併:右脚ブロックに合併した右室肥大を心電図的に診断することは困難です。P波の右房負荷所見から間接的に合併した右室肥大を診断することが出来ます。しかし、R’波の振幅増大から合併した右室肥大を診断することは困難です。

  4)右脚ブロックの臨床的意義

    (1)基礎疾患がない例に見る完全右脚ブロック 
 集団検診、人間ドックなどで、明らかな器質的基礎疾患がない例に完全右脚ブロック所見を見ることは多くあります。他疾患で、たまたま心電図を記録して右脚ブロックと診断される場合もあります。このような例に見る右脚ブロックの予後は良好で、臨床的には「健康」とみみなして、生活になんらの制約も加える必要がない場合がほとんどです。しかしながら、ただ1回の心電図記録のみでは進行性の有無を判定することは出来ないため、このような例でも、少なくとも年1回は心電図記録を行って経過を観察するような慎重な対応が必要です。

   (2)基礎疾患がある完全右脚ブロック
    高血圧、虚血性心臓病(心筋梗塞、狭心症)、特発性心筋症、心臓弁膜症、先天性心臓病などの基礎疾患に合併した右脚ブロックの臨床的意義は、基礎疾患とその重症度に依存します。右脚ブロックの有無が、その基礎疾患の進展、予後に影響を及ぼすことはありません。

   (3)Brugada症候群の1所見としての右脚ブロック様所見
    Brugada症候群は、特発性心室細動の基質として重要な臨床的意義があります。しかし、Brugada症候群の際に右側胸部誘導にみる右脚ブロック様心電図は、典型的な右脚ブロック心電図とは明らかに異なり、慣れれば両者を混同することはありません。Brugada症候群についてはこのhome pageの「循環器病」のsectionの中の「突然死の原因と対策」に含まれている「Brugada症候群」の頁に詳細に記載しているので参照して下さい。

   (4)両脚ブロックの部分所見としての完全右脚ブロック
    左脚前枝ブロックあるいは左脚後枝ブロックと合併した完全右脚ブロックの臨床的意義は、将来、完全房室ブロックに移行し、ペースメーカー植え込み療法を行わねばならなくなる例があるため、臨床的に重要です。この問題については両脚ブロックの項を参照して下さい。 

   (5)不完全右脚ブロックの臨床的意義について
    不完全右脚ブロックは臨床的意義および予後評価の観点から3種類に分けて考える必要があります。
 
     A.いわゆる「crista pattern」または「secondary r' pattern」
 正常でも、心臓内で最も遅く興奮する部位は右室後基部(肺動脈円錐部)であり(室上稜、crista supraventricukaris)、この部の興奮がV1でr’波として認められます。これは正常所見であり、あえて不完全右脚ブロックと診断する必要はありません。

 強いて診断をつけるとすれば、上述のように「secondary r wave pattern」とでも診断するに止めておくのが妥当であり、「不完全右脚ブロック」という病的所見と紛らわしい心電図診断をつけることは好ましくありません。 下図はcrista patternの実例を示します。 

V1のcrista pattern:不完全右脚ブロックに
似るが、QRS間隔は狭く、正常値を示す。

  B. 右室収縮期負荷心電図形成の中間過程としての「不完全右脚ブロック類似所見」
 右室肥大のベクトル心電図の特徴的所見は、水平面図QRS環の時針式回転です。僧帽弁狭窄症などの際には、心臓は右室肥大の初期所見として心臓長軸周りの時針式回転を起こします。そのため、水平面図QRS環終末部は左後方に偏位して、心臓長軸周りの時針式回転の所見を示します。

 右室収縮期負荷の程度が増強すると共に、心起電力の前方成分が増加し、水平面図QRS環終末部は前方に偏位するようになりますが、QRS環初期ベクトルは正常の如く右前方(または左前方)に向かうため、水平面図QRS環は右室肥大の典型的所見である水平面図QRS環の時針式回転に移行する過程として「8字型回転(figer of eight rotation)」を示します。

 このような水平面図QRS環をV1の誘導軸に投影するとrsR’型を示し、一見、不完全右脚ブロックに類似した所見を示します。しかし、この所見は右室収縮期負荷の表現であることに留意する必要があります。下図は、僧帽弁狭窄症の心電図である。V1のQRS波はrSR′型で、不完全右脚ブロック所見を示すが、これは心室内伝導障害の反映と見るよりも、右室肥大(収縮期負荷)心電図形成の中間的過程であると考えた方がよいと思います。

 
 肺高血圧を伴う僧帽弁狭窄

 上の心電図の所見の説明  

 洞リズムで、QRS軸は正常軸ですが、右軸偏位傾向を示いています。P波の幅が広く、V1のP波は陰性で、著明な左房負荷所見を示しています。U誘導のP波形は極めて特徴的で、いわゆる「緩徐上昇P波( P wave of delayed ascent)」の所見を示しています。

 P波の前1/3は右房興奮、中央1/3は左右両房の興奮の合成、後1/3は左房興奮を反映しています。本例では、左房負荷のために、このP波を構成する第3成分(左房成分)が増大した結果、U誘導でP波が緩徐に上昇し、急峻に下降する緩徐上昇P波の所見を示しています。

 V1のQRS波がrSR′型を示し、不完全右脚ブロックに類似していますが、下図に示すように、右室収縮期性負荷心電図形成の中間的過程として、このような所見を示したと考えられます。V6でR波の振幅が低いのも右室肥大の間接的所見です。

 【補】右室肥大形成の中間過程でV1が不完全右脚ブロック様所見(rSR’型)を示す機序
 下図に、右室肥大形成の中間過程として、V1のQRS波が不完全右脚ブロック様所見(rsR′型)を示す機序を模型的に示します。

 

 右室肥大の際の最も典型的なベクトル心電図所見は、水平面図QRS環の時針式回転で、QRS環主部が前方に偏位します。一般に、心室肥大の際には、QRS環終末部が肥大側心室に引っ張られるように偏位します。

 正常の水平面図QRS環は、全例が反時針式に回転し、QRS環主部は左方に描かれます。軽度の右室肥大の際には、心臓長軸周りの時針式回転がおこり、水平面図QRS環後半は右後方に偏位します。この所見は、T、V6で深いS波を生じる所見に対応しています。

 更に右室肥大が進行しますと、QRS環の前方偏位が起こりますが、QRS環前半は左前方、後半が右後方にある状態で、QRS環主部の前方偏位が起こりますと、上図に示すように水平面図QRS環は8字型回転を示します。

 すなわち、この時期は典型的な右室収縮期負荷心電図(右室肥大心電図)が形成される中間的な過程です。このようなベクトル心電図水平面図QRS環をV1の方向から眺めると、QRS環前半と後半がV1の誘導軸の(+)側に向かい、中間部が(−)側に向かうため、V1のQRS波形はRSR′型を示し、一見、不完全右脚ブロック波形に似た波形を示します。

   C. 右室拡張期負荷所見 (=右室流出路肥大の表現)としての不完全右脚ブロック
   心房中隔欠損症、三尖弁閉鎖不全、エプスタイン奇形、肺静脈還流異常などのような右室拡張期負荷疾患においては、右室が拡張するために右室壁に分布する刺激伝導系が引き延ばされ、その結果、不完全右脚ブロックを起こします。しかし、これらの右室拡張期負荷疾患の際に見る不完全右脚ブロック所見の成因としては、右脚の伝導障害よりも、右室流出路肥大の表現であるとの説が有力です。すなわち,上記のcrista patternのr'波の振幅が増大してrsR′型を示すようになったとの考え方です。

 6) 不完全右脚ブロックとBrugada型心電図(saddle-back型)との鑑別診断
    de Lunaらは不完全右脚ブロックとsaddle-back型Brugada型心電図との鑑別点として下表のような鑑別点を上げている。

 / 不完全右脚ブロック  saddle-back型
Brugada型心電図 
 r'波    形態  尖鋭  鈍
 幅  狭い  広い
 振幅  種々  低い場合が多い。
 V1,2とV6の
QRS間隔比較
 等しい。 V1,2が長い 
de Luna AB,Brugada J et al:J Electrocardiol 2012;45:433から引用 

 森は、Brugada型心電図(saddle-back型)と不完全右脚ブロックとの鑑別点を下表に示す様に指摘している。

 下図は, 健診において不完全右脚ブロックと誤診された22歳、男性、saddle-back型Brugdda心電図例の心電図を示します。

 
saddle-back型Brugada心電図(pseudo right bundle branch block pattern

  V1,2のQRS波はrSr'波を示し,一見,不完全右脚ブロックに類似しているが、上記のLunaら及び森の鑑別点に留意すると、この心電図がsaddle-badk型Brugada型心電図であることが分かる。V1,2にr’なみがあるにかかわらず、V5,6にS波がなく、V1,2のr’波が不完全右脚ブロックによる物ではないことが分かる。このような所見を示すsaddle-back型Brugada心電図は,別名,[pseudo right bundle branch block」とも呼ばれている。

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