2.7 QT延長症候群における薬剤負荷試験

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 QT延長症候群の内、LQT1型は浸透度(penetrance)が低く、遺伝子変異carrierであっても通常の臨床的検査では診断できない例が多い。このような場合にエピネフリン静注負荷法が診断に有用であることが指摘されている(Shimizu W et al. J ACC 2003;41:633-42)。

 Shimizuら(2003)は、LQT1を家系内に持つ11家系に属する家族メンバー46例、健常者15例を次の如く4群に分け、エピネフリン負荷試験のLQT1診断上の有用性について検討している。

分類 例数 分類基準 score
T群 19 遺伝子変異carrier+QTc>460msce 5.5±1.3
U群 15 遺伝子変異carrier+QTc<460msce 0.7±0.7
V群 12 遺伝子変異がない家族例 0.7±0.5
W群 15 正常対照 /
Scoreは、Schwartz PJ らの診断基準におけるscoring systemに
基づいて算出した(Circulation1993;88:7824)。

 これらの例のbaselineおよびエピネフリン負荷後における心電図によるLQT診断基準(Keatingらの基準)、score systemによる基準(≧4,≧2)およびΔQTc>30msecを用いた場合の各項目の診断基準としての感度、特異度を下表に示す(Shimizu W et al. J ACC 2003;41:633-42)。

/ Baseline エピネフリン負荷
感度(%) 特異度(%) 感度(%) 特異度(%)
Keating基準 59%(20/34) 100%(27/27) 91%(31/34) 100%(27/27)
score≧4 53%(18/34) 100%(27/27) 74%(25/34) 100%(27/27)
score>2 59%(20/34) 100%(27/27) 91%(31/34) 100%(27/27)
ΔQT c>30msec / / 91%(31/34) 100%(27/27)

U群(15例)のみについてbaselineおよびエピネフリン負荷後の感度の比較を行った成績を下表に示す
(Shimizu W et al. J ACC 2003;41:633-42)。

/ 感度(%)
Baseline エピネフリン負荷
Keating基準 7%(1/15) 80%(12/15)
score>4 0%(0/15) 40%(6/15)
scpre>2 13%(3/15) 80%(12/15)
ΔQT c>30msec / 87%(13/15)

 これらの研究結果に示されているように、エピネフリン負荷試験は、高い特異度を維持しながら、感度を著しく向上することが出来る。 
 潜在的なLQTに対するエピネフリン負荷試験実施法は次の如くである(Shimizu W et al::Heart Rhythm, 2004;1:276-282)。 

負荷方法 エピネフリン(0.1μg/kg)bolus静注+持続静注(0.1μg/kg/分)
測定項目 QTc
測定時間 1.Baseline(負荷前)、
2.ピーク時(bolus静注の1-2分後)、
3.定常状態(bolus静注の3-5分後)

 LQTにおけるエピネフリン負荷試験の判定基準を下図に示す。 

LQTにおけるエピネフリン負荷試験の判定基準

エピネフリン負荷試験によるLQT1に対する診断率の向上は下表の如くである。

/ 感度(%) 特異度(%)
心電図基準 負荷前 59 100
負荷後 91 100
ΔQTc≧30msec 91 100

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