森家レトロ・トップ頁  森家トップ頁
 トップ頁 

 皆様方は「ハーモニカ箪笥(たんす」というものをご存じですか?

 私が育った美馬市脇町にある私の生家の「箪笥の間」に黒塗りの桐製の大きい箪笥(たんす)があります(下図)。これは私の母が大正9年8月30日,徳島市から脇町の森家に嫁入りした際に船に積んで吉野川を遡上して運んだ嫁入り道具の1つであると聞いています。

 

 
 ハーモニカタンスの全体像

 この箪笥には多くの大小の「引き出し」がついていますが、これらの引き出しの中の 左上にある隣り合った2つの小型の引き出しを開閉すると非常に上品なかなり高い音がでる仕組みになっています。

     
 タンスの右上の部分 タンス左端上方の引き戸を開いた図
(下半分に更に2箇の取り手リングがついた
2つの引き出しが並んでいる。) 
引き出しの1つを引き出した状態
(このようにすると音が出る) 

母はこの引き出しを愛用しており、1日に何回となく、この引き出しを使っていました。当時、私は未だ幼なかったため、綺麗な音だとは感じていましたが、日常生活の中でいつも その音を聞いていましたので、さほど珍しいとは感じていませんでした。

 ところが、私の生家がある脇町の「卯建通り」が昭和63年(1988年)12月16日、全国で28番目に国の重要伝統的建造物群に指定されて以来、多くの観光客の方々が脇町を訪れるようになりました。町内会の人々も「保存会」を結成して、町並みの保存に力をそそぎ、ボランチアが案内を引き受けて、観光客の方々の要望に応えるべく、いろいろ努力されています。

 私どもも地元の方々に協力するために、帰宅している折りなどは、門戸を開放して観光客の方々に屋内なども差し支えがない範囲内で見て頂くようにしています。

 その際、我が家に古くから伝わるレトロの品々などもお見せしていますが、その際、母の嫁入り道具であるこの「ハーモニカ箪笥」も見て頂き、実際に引き出しを出し入れして音色を聞いて頂くと、き出しから美しい音が出るという意外性のために大変観光客の方々に喜んでいただけることに気づきました。

 私自身は長年聞き慣れていたので、あまり珍しいとの感じを持っていませんでしたが、毎日新聞に「和歌山県立紀伊風土記の丘」にこの種の箪笥が寄贈され、期間を限って一般公開されているとの記事が掲載されていたので、新聞記事になるほどであればかなり珍しいものであろうかと考えて、インターネットなどで調べてみました。

 このような箪笥は明治時代から大正時代にかけて、嫁入り道具などとして、当時はよく出回っていたもののようで、「ハーモニカ箪笥」という名前で呼ばれていることを知りました。しかし、観光客の方々にお見せした私の経験では、50歳以下の年齢層の人々のほとんどの方がこのような箪笥は始めて見たと言っておられます。

 観光客の方が、この引き出しには指輪などの貴重品を入れておくと、他人がこっそり引き出しをあけた場合、音を出して警告してくれる仕組みであろうなどと勝手に解説して下さるので、そのような場合は無難に相づちを打っていますが、実際は、箪笥職人の方の遊び心であろうと思っています。

 時々、どのような構造で音が出るのであろうかと質問される観光客の方がおられますので、インターネットで調べて見ましたが、引き出しとその枠の気密性が高くなるように精密に作られており、引き出しを抜いた枠の奥の方にハーモニカが入っているなどと書いてりますが、あまり具体的記載がないため、先日、脇町に行った際にその箪笥の音が出る引き出しを全部外に引き出して、枠の内部の奥の方をフラッシュを付けてのぞいてみました。

 引き出し本体を外に抜いて、その奥をフラッシュランプで照らしますと、奥に小さい矩形の箱が付いているのが分かります。実はこれが音を出す本体です。カメラをズームアップしますと、奥の方に小さい箱があることがわかりました。 

   
 右2箇の引き出しを全部を
抜き出した状態
左図を拡大した写真 
(右上隅に小さい矩形の箱形の
物が見える)

 この箱を拡大表示した写真を下図左に示します。の外観は、丁度、ハーモニカの金属カバーを取り除いたのと全く同じです。ハーモニカでは、呼吸を吹き込んだり、吸い込んだりして音を出しますが、この箪笥では「引き出し」の出し入れにより、ハーモニカと同じ原理で音を出していることが分かります。

   
タンスの引き出しの奥に見えた
小さい箱の拡大図 
 ハーモニカの金属カバーを
取り除いた状態

 縦に筋が入っている構造がハーモニカのリードと呼ばれる構造物に相当し、ハーモニカ箪笥のリードの数が実際のハーモニカのリードの数より少ないようであるが、実際は音の出る2つの引き出しは隣り合わせになっており、もう1つの引き出しの内部にも同様の構造物があり、これらの左右の造音部は1つの連続した構造になっているので、リードの数も6×2=12個あることになり、実際のハーモニカに負けない良い音色ででる仕組みになっています。

 それでは下記のURLリンクをクリックして、ハーモニカ箪笥の音色をお楽しみ下さい。

https://youtu.be/AAhyNXJAqOs