1.運動中の急死

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 徳留は、1984〜1988年の5年間に全国で発生したスポーツ中の突然死624例について調査し、10歳代では199例(31.9%)、20歳代では54例(8.7%)で、若年層に多く認めています。そして、39歳以前の年齢層におけるスポーツ中の突然死 326例の死因について検討し、下表のような成績を示しています。

39歳以前の年齢層におけるスポーツ中の
突然死例の基礎疾患(326例)
基礎疾患名 例数 %
虚血性基礎疾患 20 6.1
急性心不全 189 58.0
急性心機能不全 31 9.5
大動脈瘤破裂 1 0.3
脳血管系疾患 14 4.3
その他の心疾患 37 11.3
呼吸器疾患 5 1.5
溺死 16 4.9
熱中症 6 1.8
その他 2 0.6
不祥 5 1.5

 この表中の急性心機能不全と急性心不全とは、ほぼ同一病態を含むものと考えられます。
 Maronらは、29例のスポーツ選手のスポーツ中における突然死例を剖検し、内28例(96.6%)に心臓・血管系に下記のような異常を認め、潜在的な循環器疾患のスポーツ中の急死の原因としての重要性を強調しています。

基礎疾患 例数 %
肥大型心筋症 5 17.9
冠動脈奇形 3 10.7
冠動脈硬化 3 19.7
大動脈破裂 2 7.1
冠動脈低形成 1 3.6
スポーツ選手のスポーツ中における急死例の基礎疾患
(Maronら、剖検、28例)

 これらの研究成績は、運動中の急死の原因として循環器疾患が関与が非常に大きいことを示しています。運動による急死に関しては、運動量が多いために死亡する場合は少なく、むしろ運動開始から15〜20分以内の比較的早期に死亡している例が多く認められています。 

 運動中の急死の予防

  1. 潜在性心疾患の検索と病態評価
  運動中の急死の原因としては、循環器疾患が基礎疾患として重要ですから、本人が自覚していない心臓病が隠されていないかどうかを検索することが必要です。そのためには、一般診察に加えて、胸部X線写真、心電図、運動負荷心電図、心エコー図、ホルター心電図などの諸検査は必ず行わねばなりません。
 運動負荷心電図検査としては、廣く行われているマスター二階段試験、あるいは二重マスター試験程度の負荷量では不十分で、トレッドミル負荷試験あるいは自転車エルゴメター法などの定量的運動負荷試験を行わねばなりません。このような諸検査により、特発性心筋症、先天性心疾患、僧帽弁逸脱症、虚血性心臓病などの潜在する心臓病をかなりの程度に診断できます。
  2. 自覚的体調
  上記の諸検査にも限界があるため、問診により自覚的体調に充分注意を払う必要があります。ことに「かぜ」症状の有無に注意し、最近「風邪」にかかった病歴があれば、たとえ明らかな循環・呼吸系統の臨床症状を訴えていなくとも、激しい運動などに参加させるべきではありません。「かぜ」に罹患した際に、急性心筋炎を併発している可能性があり、心筋炎は急死の重要な基礎疾患の1つであるためです。
  3. 脱水、熱中症の予防
  4. warming up, slow downの実行
  5. 激しい運動直後の喫煙、大量飲水、熱水・冷水シャワーを避ける。

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