症例 8

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 症例: 44歳、男性
 
主訴: 労作時の胸痛発作
 
前病歴:15年前に特発性脱疽に罹患した。
 
現病歴:1年前から車を洗う際などに月に1〜2回胸痛発作g出現するようになった。数カ月前から発作の頻度と強さが増加し、1日数回、5分以上続く発作が起こるようになった。4年前から150・90〜100mmHgの高血圧を指摘されている。煙草5〜10本/日。
 
現症:身長171cm、体重78kg,血圧140/100mmHg,、理学的所見正常、心不全所見(-)。
 主要検査所見: 尿・末梢血:正常。総コレステロール171mg/dl,中性脂肪125mg・dl、空腹時血糖102mg/dl、尿酸7.8mg/dl。 肝・腎機能、血清電解質:正常。胸部X線写真:正常。

 下図は、安静時心電図および運動負荷後心電図である(Master二重負荷試験)。

労作性狭心症の運動負荷前心電図(44歳、男性) 狭心症例の運動負荷後心電図(左脚前枝ブロック)
安静時心電図 Master二重運動負荷試験直後

 安静時心電図はほぼ正常所見を示し、V誘導QRS波形がが移行帯所見を示すため、QRS軸は+30°の方向を示す。Master二重運動負荷試験により、典型的な狭心症状が出現すると共に,右図のように著しいST低下を示した。ST低下はT、U,aVL,aVF,V1〜V6の広範な誘導にみられ、左冠動脈主幹部病変が疑われる。

 本例においては、運動負荷心電図記録と共に、負荷前および負荷後に時間経過を追ってFrank誘導ベクトル心電図構成スカラー誘導心電図を記録し、後刻、ベクトル心電図を合成、記録した。下図左は運動負荷時のベクトル心電図の経時的変化を示す。下図右は標準肢誘導心電図の運動負荷後の経時的経過を示す。

本例の運動負荷前、負荷後のベクトル心電図の経過  Master二重負荷試験時の
   ベクトル心電図経過

 
 A:負荷前、
 B:負荷直後、
 C:1分後、
 D:5分後、
 E:8分後

 下図は、Master二重負荷試験実施前後の標準肢誘導心電図の経時変化を示す。

運動負荷前、負荷後の標準肢誘導の経過
A:負荷前、B:負荷直後、C:1分後、
D:5分後、E:8分後

 本例は労作性狭心症で、後刻実施した冠動脈造影で左冠動脈主幹部の50%狭窄が認められた。これらの一連の運動負荷後の心電図およびベクトル心電図所見は、臨床的に極めて重要な示唆を含んでいる。先生方は、これらの所見からどのようなことを学ばれたであろうか?

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