症例11の解答

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心電図目次

本例の初診時心電図

 上に,本例の初診時心電図を再掲する。QRS軸は正常軸で,P波は正常所見を示す。QRS波については,V3のR波が高く,心臓長軸周りの反時針式回転の所見を示す。ST部は,T,U,V,aVF,V1-3で上昇し,ことにV2,3での上昇が著しい。T波は,T,U,aVF,V4-6で陰性で,ことにV4,5で著しい陰性T波を示す。


 胸部X線写真では,新形態に異常を認めず、心胸郭比は50%である。

 高中性脂肪血症,低HDLコレステロール血症があるが,年令が26歳の男性であることを考慮すると,先ず疑うべきは肥大型心筋症である。そのため,心エコー図検査を行った。下図は,断層心エコー図,左室造影および冠動脈造影像である。

断層心エコー図 左室造影所見 冠動脈造影所見
超音波断層図(収縮期) 左室造影像 冠動脈造影像

 心エコー図:左室水平面断層図において,左室後側壁部にほとんど動きがない腫瘍エコーを認める。
 左室造影:矢印部に腫瘍による造影剤の充満欠損所見を認める。
 冠動脈造影:回旋枝により栄養される腫瘍濃染(tumor stain)像を認める。

 これらの所見から,本例は心臓腫瘍と診断された。心臓腫瘍は,二次性心筋症に属する。若年者で,原因不明の心電図異常(ことに心室肥大,STーT変化など)がある場合には,多少の冠危険因子を認めても,一次性(特発性)ない二次性心筋症を考えて,心エコー図検査などの精密検査を行わなければならない。
 本例は,3年前から健康診断で心電図異常を指摘されていたが,適切な事後指導が行われていなかった。心すべきことである。

 特発性心筋症とは,原因または関連の不明な心筋疾患と定義される。他方,二次性心筋症とは,明らかな基礎疾患があり,その結果としてみられる心筋病変,または全身的,系統的基礎疾患の部分症状として心筋に出現した病変をいう(表)。

1.神経筋疾患 6.心筋炎
2.結合織病 7.肉芽腫性心筋症
3.心臓腫瘍 8.アミロイドーシス
4.栄養障害 9.外傷性心筋症
5.代謝疾患 10.中毒性心筋症
二次性心筋症の分類

 心臓腫瘍の分類を表に示す。心臓原発性腫瘍の中では,良性が悪性よりも多い。良性心臓腫瘍の中では左房粘液腫が最も多い。続発性心臓腫瘍としては癌の転移(ことに肺癌)が最も多い。 

原発性腫瘍 二次性腫瘍
 A.良性
  粘液腫
  横紋筋腫
  その他(繊維腫,脂肪腫,血管腫,
  奇形種,平滑筋腫,黄色腫)
 B.悪性
  肉腫
  その他(心膜中皮腫,横紋筋肉腫,   心膜上皮腫,心膜内層肉腫)
 A. 癌または肉腫
 B.系統的腫
    ホジキン病,リンパ肉腫,白血病,
   カポシ肉腫,神経繊維腫

 明らかな原因が認められないSTーT異常を認めた差異には,本例のような心臓腫瘍などの二次性心筋症の可能性も考慮に入れて,心エコー図検査などの諸検査を行わなければらない。

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