第8例 房室接合部性期外収縮

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症例8:82歳、男性
病歴:高齢ではあるが元気に過ごしており、少年達に剣道を教えたりしている。数日前から動悸を感じるようになり、自分で脈を診ると不規則であったため、精査を希望 して来院した。下図は来院時心電図である。

房室接合部性期外収縮

解説:

 この心電図は一見して不整脈があります。洞性P波を示す心拍が基本周期の心拍です(第1,3心拍)。第2,4心拍のP波は第2、第3誘導で深い陰性を示しています。これは、心房興奮波が左足(下方)から上方に向かって遠ざかっていることを意味しています。  

 正常では、洞結節が右房上部にあるために、洞興奮が心房に伝達される際にはPベクトルは上方から下方に向かい、下方誘導である第2、第3誘導ではP波は陽性に描かれます。  本例では、心房興奮によるPベクトルが正常とは逆になり、下方から上方に向かっています。このような極性を示すP波を逆伝導性P波(retrograde P wave)といい、このような心拍のペースメーカーの部位は、房室接合部にあると考えられています。

 本例では、逆伝導性P波の早期出現が認められますので、房室接合部性期外収縮(atrioventricular junctional premature conraction, A-V junctional extrasystole)と診断されます。以前は、このような期外収縮を結節性期外収縮と呼び、そのペースメーカー部位は房室結節(田原結節)にあると考えられていました。

  しかし、その後の研究で、房室結節(田原結節)には興奮形成能(ペースメーカー機能)は少なく、房室結節と心房との接合部あるいはヒス束の方がペースメーカー機能が高いと考えられるようになりました。

 また、期外収縮のP波の形から、その期外収縮の発生部位が房室結節であるか、ヒス束であるか、あるいは心房内であるかなどの区別をすることは困難であるとの結論に達し、逆伝導性P波を持つ期外収縮は、「房室接合部性期外収縮」と呼ぶのが妥当であるとして、このような名称が一般的に用いられています。  本例は、房室接合部性期外収縮が二連脈の形で出現しています。この不整脈は良性ですから、自覚症状がなければ放置して結構です。勿論、剣道の指導などもなさってよいと思います。 

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