第20例 左室拡張期性負荷

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第20例解説:
症例:35歳、女性
臨床的事項:心尖部にLevine 4度の全収縮期性雑音を聞き、同時に著明な第3音を聞く。
本例の心電図を下図に示す。

左室拡張期性負荷の心電図

質問:
1.QRS軸は?
2.左房負荷所見はあるか?
3.左室肥大所見はあるか?(QRS波の高電圧はあるか?)
4.ST-T変化はあるか?
5.この心電図の診断は?


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第20例解説:

 まず質問への解答を示します。
  1.QRS軸は? :正常軸
  2.左房負荷所見はあるか?:認められない。
  3.左室肥大所見はあるか?(QRS波の高電圧はあるか?):左室肥大所見を認める。QRS波の高電圧を認める。
  4.ST-T変化はあるか?:ST-T変化がある。
  5.この心電図の診断は?:左室肥大(左室拡張期性負荷)。

 この心電図で最も特徴的な異常所見は左室側誘導(V5,6)におけるQRS波の高電圧と ST-T変化です。RV5+SV1=27+21=48nmnで、基準値(40mm)を超えているので左室肥大と診断されます。 左室肥大があるが、左室側誘導(第1,V5, 6誘導)でT波が陽性です。

 左室肥大は,血行動態的負荷様式の立場からは収縮期性負荷と拡張期性負荷の分かれます。 
 左室収縮期性負荷の心電図所見の特徴は下記の如くです。
   1) 左室側誘導(第1,V5,6誘導)のR波の高電圧、
   2) 左室側誘導のT波の平低化、陰性化(それによるQRS-T夾角の拡大)。
   3) 初期中隔ベクトルの減少:RV1,qV6の減少。

 左室拡張期性負荷の特徴的心電図所見は下記の如くです。
   1)左室側誘導(第1,V5,6誘導)のR波の高電圧、
   2)左室側誘導のT波は平低化・陰性化を示さない(そのためにQRS-T夾角は拡大しない)。
   3)初期中隔ベクトルの増大:RV1,qV6の増大。

 この心電図は、典型的ではありませんが、左室収縮性負荷と言うよりも、左室拡張期性負荷に一致する心電図所見を示しており、左室拡張期性負荷と診断されます。

 左室拡張期性負荷を起こす基礎疾患は、最も典型的なのは大動脈弁閉鎖不全症ですが、その他に心室中隔欠損症、動脈管開存症、僧帽弁閉鎖不全症などがあります。 本例では心尖部に4度の逆流性雑音(全収縮期性雑音)を聴取し、第3音を聞くことからも、僧帽弁閉鎖不全症が最も強く考えられます。  

 心電図診断:左室肥大(左室拡張期性負荷)

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