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第19例:
症例:23歳、男性
臨床的事項:理学所見:心尖部にLevine
2度の駆出性収縮期雑音を聞く以外は特記するべき異常はない。血圧120/80mmHg。
職場の定期健診で心電図を記録し、「左室肥大」と診断され、「心電図に軽い異常が見られる」として、心臓精密検査を指示された。
下図は本例の心電図である。
質問:
1)リズムは?
2)QRS軸は?
3)V1の陰性T波は異常か?
4)QRS波の異常な高電圧はあるか?
5)本例の心電図診断は?
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第19例解説:
1) リズムは?
:正常洞調律
2) QRS軸は?:正常軸
3) V1の陰性T波は異常か?:
若年性T波(juvenile T wave
pattern)で、正常所見 です。
4) QRS波の異常な高電圧はあるか?:
RV5(6)+SV1=32mm + 6mm=38mm と Sokolow
-Lyon 基準の35mmを超えていますが、日本人の基準値(森・川真田基準)である40mm (30歳以下の若年男性では50mm) を満
たしていないので、病的な高電圧はなく、生理的な高電圧です。すなわち正常所見です。
5) 本例の心電図診断は? :
正常心電図
。
従って、この心電図を左室肥大と診断し、「心電図に軽い異常が見られます。」として精密検査を指示した健診担当医の診断は明らかに誤っています。
心基部にLevine 2度の駆出性収縮期性雑音を聞いていますが、これは機能性雑音で、若い人には多く認められます。その多くは血流速度が速いために起こる生理的雑音で、臨床的意義はありません。 血圧が正常で、理学所見に異常がなく、左室肥大を起こす基礎疾患がない例に、QRS波の高電圧のみに基づいて「左室肥大」と診断することは絶対に行ってはいけません。
また、心電図的左室肥大診断基準として、日本人にはSokolow-Lyon基準は用いるべきではなく、下記の2基準の内、何れか1つを満たした場合に診断します。
1) RV5(6)+SV1≧40mm (30歳以下の若年男性では50mm)
2) R1+S3≧20mm
上記の2基準の内、1)は水平面図におけるQRS波の高電圧、2)は前面図におけるQRS波の高電圧で、この両者から立体的な心起電力ベクトルの大きさの増大があるかどうかをcheckします。 この場合も、左室肥大を起こす基礎疾患がない場合に、この基準のみから左室肥大と診断するには慎重でなければなりません。