第16例 正常小児心電図(3)
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第16例:
今回も何ら臨床情報なしに いきなり心電図だけをお見せします。この心電図をどのように診断しますか?
この心電図を一見して分かることは、下記の所見です。
1) 著しい洞頻脈がある(心拍数170/分)。洞頻脈でも230/分に達した例があることが報告されている。
2) QRS間隔が狭い(広くない)。
3) 右側胸部誘導のT波が陰性である(若年性T波、juvenile T wave pattern)
4) 右側胸部誘導でR波が高い〔(生理的)右室優位〕
5) QRS軸の右軸偏位〔(生理的)右室優位〕
これらを総合して、この心電図が小児心電図であることが分かります。問題は、正常小児心電図か、あるいは右室肥大の合併があるかどうかです。
右室肥大で、V1, 2のR波が本例のように高くなる場合は、必ず右房負荷を合併します。然るにこの心電図には右房負荷所見は全く認められません。また、右室肥大で QRS軸が著明な右軸偏位を示す場合は、第3, aVF誘導のT波が陰性になります。いわ ゆる「右肥大型」の心電図所見です。
心臓に異常がなく、単に位置変化のために心臓電気軸が水平位(横位)を取る場合 は、QRS波およびT波の振幅が第1>第2>第3誘導の順序を示し、QRS波とT波が同じ
態度を示します。 垂直位の場合も同様で、右室肥大がない場合は、QRSおよびT波の振幅が第1<第2<第 3の順序となり、QRSとTの振幅の変化は同様の傾向を示します。
心室肥大(右室肥大、左室肥大)の場合は、QRS波とT波の大きさの変化の順序が逆に なります。すなわち、右室肥大の場合は、QRS波は第3>第2>第1誘導;T波は第1>第2>第3誘導の順序になります。
左室肥大の場合はQRS波は第1>第2>第3 ;T波は第3>第2>第1誘導の順序になります。 このように単なる位置変化(位置型)と肥大の場合(肥大型)とでは、標準肢誘導におけるQRS波の振幅の変化の順序と、T波の振幅の変化の順序が逆になりますが、これは心室肥大の場合は肥大に伴う心室内興奮伝導様式の変化のためにQRS-Tベクトル夾角の拡大が起こるためです。
下表に標準肢誘導における「位置型と肥大型」のQRS波とT波の振幅の関係を示します。
また、下図は典型的な「左肥大型」および「右肥大型」の場合の標準肢誘導心電図の実例を示します。
本例の四肢誘導におけるQRS波とT波の振幅の変化の順序に、著明な右肥大型の変化は認められません。そのようなことから、本例に認められたQRS波の右軸偏位、右側 胸部誘導のR波増大と陰性T波、およびV6におけるS波の増大は、右室肥大によるとは考えられません。従って、この心電図は、生理的右室優位の表現と考えられます。 この心電図は、生後2日目の健康な新生児の心電図です。
心電図診断:正常小児心電図 (生理的右室優位)