次へ(WPW症候群) | 循環器病目次へ |
近年、糖尿病患者が著しく増加し、その3大合併症の1つである糖尿病性腎症に罹患する患者数も著しく増加している。人工透析適応例は、以前は圧倒的に慢性腎炎を基礎疾患として持つ例が多かったが、近年は糖尿病性腎症を基礎疾患として持つ例の占める割合が多くなった。
糖尿病の治療の際に、できるだけ良好なコントロールを保って合併症の進展を防止することが大切であるが、一旦、糖尿病性腎症を発症した例においては、適当な生活指導および治療を行うことにより透析療法を必要とするような進行した病期への進展を出来るだけ防止するように努めねばならない。
日本腎臓学会は、1998年4月 「腎疾患の生活指導・食事療法ガイドライン」を発刊し、その中に糖尿病性腎症の生活指導についても記載しているので、糖尿病性腎症の治療に焦点を絞って紹介する。
糖尿病性腎症の診療に際しては、まず病期分類を行い、それに従って指導区分を定め、この指導区分に従って生活指導を行う。
1)糖尿病性腎症の病期分類
下表に従って病期分類を行う。
病期 | 臨床的特徴 | 病理学的特徴 (参考所見) |
備考 (提唱されている治療法) |
||
尿蛋白 (アルブミン) |
クレアチニン・ クリアランス |
||||
第1期 腎症前期) |
正常 | 正常、 時に高値 |
瀰漫性病変 | なし〜軽度 | 血糖コントロール |
第2期1) (早期腎症) |
微量 アルブミン尿 |
正常 時に高値 |
瀰漫性病変 | 軽度〜中等度 | 厳格な血糖コントロール、 降圧治療2) |
結節性病変 | ときに存在 | ||||
第3期A (顕性腎症 前期) |
持続性 蛋白尿 |
ほぼ正常 | 瀰漫性病変 | 中等度 | 厳格な血糖コントロール、 降圧治療、蛋白制限食 |
結節性病変 | 多くは存在 | ||||
第3期B (顕性腎症 後期) |
持続性 蛋白尿3) |
低下3) | 瀰漫性病変 | 高度 | 降圧治療、低蛋白食 |
結節性病変 | 多くは存在 | ||||
第4期 (腎不全期) |
持続性 蛋白尿 |
著明低下 (血清クレアチニン上昇) |
末期腎症 | / | 降圧治療・低蛋白食、 透析療法導入4) |
第5期 (透析療法期) |
透析療法中 | / | / | 透析療法、腎移植 |
〔註〕1) 糖尿病性腎症早期診断基準を参照、
2) 第2期では正常血圧者でも時に血圧上昇を認めることがある。微量アルブミン尿に一部の降圧薬の有効性が報告されている。
3) 持続性蛋白尿1g/日以上、GFR(Ccr)約60ml/分以下を目安とする。
4) 長期透析療法適応基準を参照(平成2年度糖尿病調査研究報告書、p.252〜256)。
2)血清クレアチニン値からのクレアチニン・クリアランスの推定と腎機能評価
A,血清クレアチニン値からのクレアチニン・クリアランスの推定
下記の安田の推定式が簡便である。
男性: (176−年齢)×体重/(100×血清クレアチニン値)
女性: (158−年齢)×体重/(100×血清クレアチニン値)
B.クレアチニン・クリアランスによる腎機能分類
腎機能分類 | クレアチニン・クリアランス(ml/分) |
正常 | >91 |
軽度低下 | 71〜90 |
中等度低下 | 51〜70 |
高度低下 | 31〜50 |
腎不全期 | 11〜30 |
尿毒症期 | 10以下〜透析 |
3)糖尿病性腎症の生活指導
病期 | 生活一般 | 勤務 | 運動 | 家事 | 指導 区分 |
第1期 (腎症前期) |
普通生活 | 普通勤務 | 原則として糖尿病 の運動療法を行う |
普通に可 | E |
第2期 (早期腎症期) |
普通生活 | 普通勤務 | 原則として糖尿病 の運動療法を行う |
普通に可 | E |
第3期A (顕性腎症 前期) |
普通生活 | 普通勤務 | 原則として運動可 (病態により程度を 調節。過激な運動 は不可)。 |
普通に可 | E〜D |
第3期B (顕性腎症 後期) |
軽度制限 (疲労が残ら ない程度) |
軽度制限 (業務の種類により 普通勤務〜座業 までにする) |
運動制限 (体力を維持する 程度の運動は可) |
軽度制限 (疲労を感じ ない程度) |
C |
第4期 (腎不全期) |
制限 | 軽勤務〜制限勤務 (疲労を感じない範囲の 座業を主とする。 残業、夜勤は避ける。 |
運動制限 (散歩、ラジオ 体操は可) |
制限 (疲労を感じ ない程度) |
B |
第5期 (透析療法期) |
軽度制限 (疲労が残ら ない程度) |
原則として軽勤務。 (超過勤務、残業は 時に制限) |
原則として軽運動 (過激な運動は 不可) |
普通に可 (疲労が残ら ない程度) |
C |
〔註〕増殖性網膜症合併例では、腎症の病期にかかわらず制限を加える。 |
3.糖尿病性腎症の食事療法
病期 | 総エネルギー (kcal/kg/日)* |
蛋白 (g/kg/日)* |
食塩 (g/日) |
カリウム (g/日) |
備考 | |
第1期 (腎症前期) |
25〜30 | / | 制限せず** | 制限せず | 糖尿病食を基本 とし、蛋白過剰 摂取を避ける。 |
|
第2期 (早期腎症) |
25〜30 |
1.0〜1.2 |
制限せず** | 制限せず | ||
第3期A (顕性腎症 前期) |
25〜30 | 0.8〜1.0 | 7〜8 | 制限せず | ||
第3期B (顕性腎症 後期) |
30〜35 | 0.8〜1.0 | 7〜8 | 軽度制限 | 浮腫の程度、 心不全の有無 により水分を 適宜制限。 |
|
第4期 (腎不全期) |
30〜35 | 0.6〜0.8 | 5〜7 | 1.5 | ||
第5期 (透析療法期) |
維持透析患者の食事療法に準じる。 | |||||
*標準体重、**高血圧合併例では7〜8g以下に制限する。 |