心房粗動タイトル

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 心房粗動(atrial flutter, AF)では、第2,3,aVF誘導で基線が静止することなく、大きい鋸歯状波を示します(F波)。F波の数は220〜370/分で、極めて規則的に出現し、U、V,aVFなどの下方誘導で通常下向き(陰性)に記録されます(通常型心房粗動)

 。しかし、時に非典型的な場合があり、診断に困難な場合があります。房室伝導障害がない最もよく見る心房粗動は、2個のF波の内、1個のみが心室に伝わる型で(2:1房室伝導を伴う心房粗動)、このような場合は心拍(脈拍)に不整はなく、全く不整脈を認めません。

 1.心房粗動の頻度
  稀な不整脈ではありませんが、心房細動に比べると頻度が少なく、下記のような頻度が報告されており、大体心房細動の1/20の頻度に認められています。

著者 対象 心房粗動 心房細動
例数 例数
Katz,Pick 50,000 270 0.54 5,859 11.7
McMillan,Bellet 1,600 80 0.5 464 2.9

2.心房粗動の心電図

 心房粗動の心電図の特徴は、@P波の消失、AF波の出現で、心拍リズムは規則的な場合と不規則な場合とがあります。F波の数は毎分250〜350回の例がおおいのですが、それ以下のこともあります。F波は、f波と異なり、波形は一定で規則的です。

4:1房室伝導の心房粗動

 上の心電図では、P波はなく、規則的に出現する粗動波(F波)を認めます。4個のF波に対し1個の心室群を認め、4:1房室伝導の心房粗動です。QRS波は常にF波の一定部位から始まっており、房室伝導障害はありんません。この心電図のように房室伝導比が常に一定の場合にはRR間隔は規則的で、不整脈を認められません。

5:1および6:1房室伝導の通常型心房粗動の心電図

 上の心電図では、U、V1誘導に規則的な鋸歯状波(F波)を認めまする。F波の波形はU誘導で下向きですから通常型心房粗動と診断されます。F波が上向きであるか、下向きであるかは、QRS波の起始部を結んだ線(基線)から上方にあるか下方にあるかにより定めます。

 5個のF波の内の1つが心室に伝導している場合。(5:1房室伝導)と、6個のF波の内の1つが心室に伝導している場合(6:1房室伝導)があり、心拍の不整を認めます。第1心拍と第2心拍におけるF波とQRS波との時間的関係を見ると、F波の異なった部位からQRS波が立ち上がっており、房室伝導障害があることが分かります。

諸種の房室伝導比の心房粗動
A:1:1心房粗動, B:2:1心房粗動,
C:3:1心房粗動, D:4:1心房粗動

3.心房粗動の分類

 心房粗動は、粗動波(F波)の波形、極性、数(rate)、臨床経過などにより次のように分類します。
 1)F波の形、極性による分類
  (1)普通型(common type):U、V,aVFでF波が鋸歯状を示し、QRS波の起始部を結ぶ線を基準としますと、F波は下向き(陰性)に描かれます。
  (2)希有型(rare type):F波が陽性に描かれます。

 2)F波の数による分類
  (1)T型(type T):F波の数が240〜340/分
  (2)U型(type  U):F波の数が340〜440分

 3)経過による分類
  (1)慢性心房粗動(chronic atrial flutter)
  (2) 発作性心房粗動(paroxysmal atrial flutter)

4.心房粗動の基礎疾患
 壮年、高年の男性に多く、中等度ないし高度の器質的心疾患を有する例に見られ、正常例に見ることは稀です。

基礎疾患 虚血性心疾患、心筋梗塞、高血圧、
急性リウマチ熱、リウマチ性心疾患、
甲状腺中毒症、心筋炎、先天性心疾患、
収縮性心膜炎、薬物(ジギタリス、
キニジン、プロカイアミドなどによる心房細動
の洞調律
への移行期)
誘因 外傷、手術、低酸素血症、急性感染症、
糖尿病性アシドーシス、アルコール、過食、
薬物(エピネフリン、エフエドリン)

5.心房粗動の出現機序
 心房粗動の成因としては、興奮旋回説と異所中枢機能亢進説とがありますが、前者が有力です。興奮旋回が成立するためには、下記の3条件がすべて存在することが必要です。
   1)興奮旋回路(reentrant circuit)
   2)一方向性伝導(unidirectional conduction)
   3)緩徐伝導部位(site of slow conduction)

 common typeの興奮旋回路としては、心房中隔および右房後壁をし、右房側壁および前壁を下行する反時針式に回る旋回路が認められています。uncommon typeの興奮旋回路については種々の意見があり、Casioはuncommon type4例中2例ではcommon typeとどうようの反時針式に回転する旋回路を認めていますが、他の2例ではcommon type と逆方向の時針式に回転する旋回運動を認めています。

 一般に、このような旋回路としては、解剖学的障害物の周りを旋回する場合が多く、そのような解剖学的障害物としては、上・下大静脈、肺静脈、三尖弁輪、僧帽弁輪などがあります。


6.心房粗動の治療
 心房粗動の治療は、発作時治療(洞調律化)と発作予防に分けます。また、薬物療法と非薬物療法に分けます。1:1房室伝導の心房粗動では、心拍数が著しく増加するために血行動態の悪化を招き、生命に危険を及ぼす場合もあるため救急治療が必要となる場合もあります。

 1)全身状態が悪く早急な徐拍化(洞調律化)が必要な場合。
  (1)直流除細動:洞調律化率が高い。
  (2)ジギタリス薬静注:デスラノシド(セジラニド)、ジゴキシン(ジゴシン)静注(心房細動の項参照)
  (3)抗不整脈薬静注:心房細動に準じる:Tc群抗不整脈薬は使用しません(血行動態悪化)。

 2)再発予防
  抗不整脈薬内服療法を行います(心房細動に準じます)。

 3)心拍数制御
  この目的にはジギタリス薬〔ラニラピド(ミチルジゴキシン)〕内服を行います(心房細動に準じます)。

 4)カテーテルアブレーシヨン
 心房粗動の旋回路を高周波電流で焼灼し、心房粗動が起こらないようにします。近年、術式が改善され、成功率が増加してきました。以下に書家による治療成績を示します。

著者 心房粗動の型 成功率(%) 合併症(%) 再発率(%)
笠貫 通常型 90%以上 まれ
非通常型、U型 未だ研究段階
Saxonら 通常型 80〜100% 9〜14%
岩佐、奥村 通常型 95% 0% 15%

資料:1.笠貫宏:不整脈:非薬物療法の現状と展望.Medical Practice 16(8):1238-1247,1999
    2. 岩佐篤、奥村謙:心房粗動の成因と治療戦略.医学のあゆみ 189(5):319-324,1999

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