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Grantらは、スポーツ参加のための健診で゙13歳、男児の心電図を記録し、QT間隔延長を認め(QTc=500msec)、心室群波形の特徴から先天性QT延長症候群3型(LQT3)と診断した。本例の心電図を下図に示す。
本例(発端者)の心電図。 13歳、男児。 QTc間隔は500mscと 著明に延長し、ST間部の 著明な延長によるQT間隔 の延長を認め、LQT3と 診断された。 |
本例は無症状であったが、遺伝子解析の結果、その変異を認め、家族歴で剖検的に心臓に異常がない心臓突然死例を2例に認めたために詳細な家系調査を行った。下図はその家系図である。発端者(上記の例)はWー13である。
LQT3,Brugada、Lenegreを同一家系に認めた家系の家系図 ↑:発端者、○女性、□男性。緑色:臨床dataなし。中央に黒点がある円、四角:遺伝子変異例。 斜線:死亡例。SD: 突然死 |
発端者の父(V-14)はQTc延長(480msec)を示し、数回の失神発作の病歴があり、その発作の1つの際に第1度房室ブロック、収縮停止(asystole)が認められ、59歳時にペースメーカー植え込みを受けた。本例は遺伝子変異を認めた。下図に本例の心電図を示す。
発端者の心電図に認めた心停止。 |
また、発端者の父型の叔父(V-12)にも遺伝子変異を認めた。本例は30歳時に失神発作を起こし低入院したが失神の原因は不明であった。しかし、1968年に記録した心電図でV1-3にST上昇を認め、Brugada型心電図と考えられた。今回の検査時にはこのような所見は認められなかったが、フレカイニド静注負荷試験を行ったところcoved型のST上昇を認めた。
本例の息子(V-5)の2歳の男児にも遺伝子変異を認めたが、心電図は正常であった。。
Wー12(Vー12の息子)は無症状で、心電図も正常であったが,フレカイニド静注負荷試験でBrugada様心電図を認め、ホルター心電図検査で安静時に4秒以上の心停止が記録された。しかし、本人はこの発作は自覚していない。本例に実施した心臓電気生理学的検査において右室流出路刺激により心室細動が誘発されたため、植え込み型除細動器の植え込みが行われた。
Vー14の父側の3人の甥では遺伝子変異を認め、彼らの子孫の検索で8例の遺伝子変異例が見つかった。内4例では原因不明の失神を病歴に認めた。これらの中の7例ではQT間隔延長があり、6例ではフレカイニド静注負荷により典型的なST上昇を認めた。その他に1例(W-3)ではPR間隔は正常上界値を示し、完全右脚ブロック、faintnessを伴う洞停止を認めた。下図は、本例に実施したフレカイニド負荷試験による右側胸部誘導のST上昇を示す。
症例W-3 上からV1,V2,V5誘導。 完全右脚ブロック所見 を認め、フレカイニド 静注負荷試験により V1, 2誘導で典型的な coved型ST上昇を認める。 |
下図は本例に認められた心停止時の心電図記録である。
症例W-3。完全右脚ブロックと洞停止を認めた。 |
症例W-2, W-3では失神の前駆症状を認め、これらの例では心臓電気生理学的検査を行った。これらの2例では心尖部の早期期外刺激2連発により心室細動が誘発されたため、植え込み式除細動器の植え込みを行った。
遺伝子変異を認めた16例中、臨床的検討を行った15例における臨床検査成績を下表に示す。
症例1) | QTc(ms) | 遅延電位 | ST↑ | 伝導障害 | フレカイニド 負荷試験 |
失神発作 |
V-5 | 450 | − | + | − | + | − |
V-10 | 486 | 実施せず | − | − | 実施せず | + |
V-12 | 490 | + | + | − | − | − |
V-14 | 475 | + | + | + | + | + |
W-2 | 465 | − | + | +3) | + | + |
W-3 | 510 | + | + | + | + | − |
W-4 | 470 | − | + | +3) | + | + |
W-5 | 475 | + | + | +3) | + | − |
W-7 | 495 | + | + | + | + | + |
W-9 | 495 | − | + | − | + | − |
W-12 | 470 | − | − | +3) | − | − |
W-132) | 500 | 実施せず | − | − | 実施せず | − |
X-1 | 490 | 実施せず | − | − | 実施せず | − |
X-3 | 460 | − | − | +3) | 実施せず | − |
X-5 | 490 | − | − | + | 実施せず | + |
1)本表記載例は全例遺伝子変異(+)、2)発端者、3)不完全右脚ブロック |
臨床的検討を実施した遺伝子変異例15例において、上表に示す検査結果から分類した診断名別頻度は下記の如くである(LQT:QT延長症候群、ICCD:特発性心臓伝導障害(Lenegre病)。
診断名 | 例数 | % |
LQT+ICCD+Brugada | 6 | 40.0 |
LQT+Brugada | 3 | 20.0 |
LQT+ICCD | 3 | 20.0 |
LQTのみ | 3 | 20.0 |
何らかのcombination | 12 | 80.0 |
上表でわかるように、1つの遺伝子の変異が、種々の異なったphenotype(表現型)を示す場合があり、このような状態をオーバーラップ症候群(overlap syndrome) と呼ぶ場合がある。