2.2 QT延長症候群の遺伝子別にみた
心臓発作の誘因

遺伝性不整脈 LQTの目次へ LQTの心電図所見

 QT延長症候群における心事故(不整脈発作)の誘因には、各遺伝子型により特徴がある事が知られている。下表は各遺伝子型別に見た心事故(不整脈発作)の誘因を示す。

分類 心臓発作の誘因
LQT1 運動(ことに水泳)、情動ストレス
LQT2 音刺激(目覚まし時計)、睡眠からの覚醒
LQT3 安静時、睡眠中
JLN 運動、情動ストレス

 JLN (Jervell and Lange-Nielsen症候群)はLQT1に類似する。また、LQT5はLQT1に類似し、LQT6はLQT2に類似する。

LQT1とLQT5の病像が類似する機序:

 LQT1とLQT5は、何れもIksの減少による。LQT1およびLQT5の原因遺伝子であるKCNQ1とKCNE1は複合体を形成し、緩徐活性化遅延整流K+電流(Iks)を発生させる。従って、KCNQ1またはKCNE1の何れに異常があっても、Iksは減少し,QT間隔は延長する。このような病態のうち、KCNQ1の異常による例をLQT1と呼び、KCNE1の異常例をLQT5と命名する。従って、 LQT1とLQT5は臨床病像、心臓発作の誘因、心電図所見が類似する。

LQT2とLQT6の病像が類似する機序:

 LQT2とLQT6は、何れもIksの減少による。LQT2およびLQT6の原因遺伝子であるKCNH2とKCNE2は複合体を形成し、急速活性化遅延整流K+電流(Ikr)を発生させる。従って、KCNH2またはKCNE2の何れに異常があっても、Ikrは減少し,QT間隔は延長する。このような病態のうち、KCNH2の異常による例をLQT2と呼び、KCNE2の異常例をLQT6と命名する。従って、 LQT2とLQT6は臨床病像、心臓発作の誘因、心電図所見が類似する。

 下図は、遺伝子別にみた致死的不整脈発作のトリガー因子の種類と頻度を示す。

遺伝子別にみた致死的不整脈発作のトリガー因子の種類と頻度
Schwartz PJ et al:Circulation 2001;103,89-95

 この表に見るように、LQT1では運動により発作が誘発される例が最も多く(68%)、ついで情動ストレス(14%)による誘発が多い。LQT2では、情動ストレスが最も多く(49%)、運動後、安静・睡眠時がほぼ等しい。LQT3では、安静・睡眠中が最も多い(64%)。

下図は、致死的不整脈発作を誘発する特異なトリガー因子別に見たQT延長症候群各型の頻度を示す。聴覚刺激により不整脈発作が誘発されるLQTとしては、LQT2型が圧倒的に多く、また水泳により不整脈発作が誘発されるLQTとしてはLQT1が大部分を占めている。

トリガー因子別に見たQT延長症候群各型の頻度
Schwartz PJ et al:Circulation 2001;103,89-95

このように、LQTの型によっては特異的な不整脈発作誘発因子があるため、LQTの治療の際には、各人の遺伝子型を考慮し、下表に示すごとく、その型に応じた発作誘発因子回避を指導しなくてはならない。

生活指導
LQT1,LQT5 高度の運動制限(+++++):、ことに競泳、潜水、マラソン
の禁止。特に思春期前の男性では注意が必要である。
LQT2,LQT6 運動制限(+++)、音刺激、出産前後
LQT3 運動制限は必要でない。

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