早期再分極とBrugada症候群

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 早期再分極とBrugada症候群とは、その成因、心電図所見、臨床病像などに類似点が多いため、典型的なType 1Brugada型心電図波形を示す例において、下方誘導、前胸部誘導に再分極波を示す例が少なくない。このようなBrugada型心電図に合併した早期再分極波を有する例とBrugada型心電図のみを示す例との間に臨床病像に相違があるのであろうか?

 Sarkozyらは、この点について多数のType 1Brugada心電図波形を示す例について検討している。以下、Sarkozyらの研究成績を紹介する。(Sarkozy A et al:Cir Arrhythmia Electrophysiol 2:154, 2009)。

1.Brugada症候群での早期再分極の出現率
  Sarkozyらは280例のBrugada症候群について、合併した早期再分極の頻度、臨床的意義などについて検討した。この研究に用いたBrugada症候群の基準は下記の如くである。

 1) V1-3の何れかで自然/薬剤誘発性のcoved型Type 1 Brugada型心電図を認める。
 2) 遺伝子SCN5A変異を認める。
 3) Brugada症候群の家族歴がある。

 また、再分極異常としては、aVR以外の肢誘導の何れか1誘導で≧1mmのJ波を認める場合を下側方再分極異常(inferiori-lateral repolarization abnormalitiy)とし、これらはさらに下方(第2, 3、aVF誘導)および側方(第1 ,aVL誘導)再分極異常に分類した。また これらのcoved Brugada波形および再分極異常は、自然出現例と1群抗不整脈薬誘発例とに分けて検討した。

 Sarkozyらは、 Brugada症候群280例中で32例(ni11.4%)に早期再分極の合併を認めた。これらの例での早期再分極の出現誘導部位は下表の如くである。

名称 誘導部位 例数 % Brugada全例
中の頻度(%)
側方早期再分極 第1,aVL 12 37.5 4.3
下方早期再分極 第2,3,aVF 18 56.3 6.4
下側方早期再分極 第1,2,3,
aVL,aVF
2 6.3 0.7
全例 32 100 11.4

 2. Brugada症候群に合併した自然早期再分極の臨床的意義
  Sarkozyらは、Brugada症候群を薬剤負荷を加えない状態で早期再分極を認めた群(自然葬記載分極群)と認めなかった群に分け、これらの2群における有症候群および自然Type 1 Brugada型心電図波形を示す例の頻度を調査し、下表のような結果を得た。

自然早期
再分極波
例数 有症候群 自然Type 1波形
例数 例数
32 19 59.4 19 37.5
2438 32 37.1 92 21.4

 この表から分かるように、早期再分極を合併したBrugada症候群は、非合併例に比べて有症候群が多く、また自然Type 1波形を示す例が多く、より重篤な表現型であると考えられる。

 我が国における厚生労働省の循環器病委託研究においても、Brugada症候群全例における予後予測因子の検討において、早期再分極の合併は心事故出現の予測因子として重要であるとの結果が示されている。下図は、早期再分極合併の有無による累積心事故回避率を示す。早期再分極合併例では、累積心事故回避率が非合併例に比べて有意に低いことを示す。

 Brugada型心電図(Type 1)例で、早期再分極合併例では、非合併例に比べて心事故を起こし易い。

(鎌倉史郎:呼吸と循環
58 (1:21-1, 2010)

3.Brugada型心電図と早期再分極の合併例 
  下図は、Sarkozyらの論文から引用したBugada症候群に合併した早期再分極例の心電図である。本例は心停止からの蘇生例(76歳)で、V1,2に典型的なcoved型Brugada型心電図を認めるが、下方誘導(第2,3誘導)にJ波を認める。 

V1,2にcoved型の典型的Brugada型心電図を示し、第2,3誘導にJ波を認める。

 下図は、Brugada型心電図(saddle-back型)に早期再分極が合併した自験例の心電図である。V2に高いR'型を認め、一見、不完全右脚ブロックに類似するが、第1誘導、V6には対応したS波を認めず, またaVRにlate R波を認めず、不完全右脚ブロック所見に一致しない。このような心電図をRieraらは、early repolarization variant, pseudo incomplete right bundle branch blockと診断している。 

図1.30歳、男性、健診受診例。循環器学的愁訴、急死家族歴なし。

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