早期再分極の治療

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1.諸種薬剤および運動の早期再分極波への影響
  Gussakらは諸種薬剤および運動の早期再分極波への影響を下表の如く示している。このような早期再分極波への影響は、これらの薬剤および運動がBrugada型心電図に与える影響と極めてよく類似している。

/ 効果
Na+遮断薬
イソプロテレノール
β遮断薬
運動
ニトログリセリン
Gussak I et al:J Electrocardiol 33:299, 2000

2.ICD植え込み特発性心室細動例を早期再分極の有無により2群に分け、これらの2群における諸種薬剤およびカテーテル焼灼法の心室細動発現予防効果を比較した研究
 Hasissaguerreら(2008)はICDを植え込んだ特発性心室細動206例を早期再分極を示す群(64例)と示さない群(142例)の2群に分け、これらの各群での諸種薬剤およびカテーテルアブレーションの心室細動発現予防効果を比較し、下表のような結果を得た。


/ 早期再分極
(+)群
64例
(−)群
142例
例数 例数
β遮断薬 2/13 15.4 9/17 52.9
アミオダロン 0/7 0 3/7 42.9
フレカイニド
ピルジカイニド
1/10 0 2/4 50.0
キニジン
ジソピラミド
4/4 100 1/3 33.3
ベラパミル 0/5 0 3/8 37.5
メキシレチン 0/5 0 0/2 0
カテーテル焼灼 5/8 62.5 6/7 85.7
効果判定は、ICDモニタで、少なくとも最近1年間に
心室細動を起こさなかった例を有効と判定した。
(Hasissaguerre M et al: N Eng J Med 358:2016,2008)

 下図は、上表をグラフ化したものである。

1c群:フレカイニド、ピルジカイニド
Hissagguerre M et al:N Eng J Med 358(19):2016,2008

 上の図に見るように、早期再分極を伴う特発性心室細動例の治療には、キニジン、ジソピラミドおよびカテーテル焼灼法が有効である。

3. 早期再分極による心室細動の治療
 1) Electrical stormの治療
   (1) イソプロテレノール点滴静注は全例で有効であった。
   (2) アミオダロンは3/10例に有効であった。
   (3) β遮断薬、リドカイン、メキシレチン、ベラパミルは無効であった。
 2) 慢性期治療
   (1) キニジンは全例で有効であった。
   (2) カテーテル焼灼法は8例中5例(63%)で有効であった。
   (3) β遮断薬、ベラパミル、メキシレチン、アミオダロン、1c群抗不整脈薬は無効であった。

〔注〕1) electrical stormとは、24時間以内に3回以上の心室細動発作を起こした例とした。
   2) キニジン経口投与により、完全に心発作の出現を予防できた例も報告されているが、全ての例でそのような完全な効果を得ることができるわけではなく、体内埋め込み式除細動器(ICD)の植え込みが必要である。

4.早期再分極による特発性心室細動例にキニジン内服が有効であった例
  Gragらは、早期再分極に基づく特発性心室細動例に、キニジン経口投与が発作出現を完全に抑制できたが、患者が自己判断により薬剤内服を中止したところ、心室細動発作を起こして急死した例を報告している。

症例:18歳、男性、失神発作
1)病歴
 従来、健康であったが,突然、意識喪失発作をおこし、周囲の人が蘇生術を実施するとともに救急通報し、救急士により直流ショック治療により除細動された。
2)家族歴
  父が32歳、妹が13歳で急死している。
3)検査成績
  除細動後、理学的所見は正常、心エコー図、、心血管造影、冠動脈造影、右心カテーテル検査などのしょ検査を行ったが、全て正常所見を示した。

4)心電図
  下図に本例の心電図を示す。下方誘導(第2, 3, aVF誘導)、前側方誘導(第1, aVL,V 3-6誘導)にJ波を認め、早期再分極と診断される。  

18歳、男性、意識喪失発作。下方誘導(第2,3,aVF)、前側方誘導(第1,aVL,V3-6)で、QRS波の
直後にJ波を認め、下前側方早期再分極と診断される。その他に異常心電図所見を認めない。
(Greg A et al: Cardiovas Electrophysiol9:642,1998)

 下図は、上の心電図のaVF、V4,5誘導の心電図波形を光学的に拡大表示したものである。

上図の心電図のaVF,V4,5誘導図心電図の
光学的拡大図

 QRS波の直後に明瞭なJ波を認める。

 加算平均心電図では、心室遅延電位(+)。心臓電気生理学的検査では、右室心尖部での2連発早期刺激で多形性心室頻拍が容易に誘発された。

 そのため、グルコン酸キニジン(684mgX3)内服による治療を行い、心電図で認められたJ波の消失、心室遅延電位消失、心室早期刺激での多形性心室頻拍の誘発不能、失神発作消失などの明らかな効果を認めたためにキニジン投与下に経過を観察し、6年間にわたり無症状に経過していた。
 しかるに、不明の理由により、患者が自己判断によりキニジン内服を中止したところ、間もなく急死した。

 下図はキニジン投与による心室遅延電位の消失を示す。

早期再分極による特発性心室細動例でのキニジン内服治療による心室遅延電位の消失
(Grag A et al:Cardiovas Electrophysiol 9:642,1998)

 また下図は本例でのキニジン内服治療による右室プログラム刺激による多形性心室頻拍誘発性の消失効果を示す。

上図:キニジン治療前には、右室心尖部の二連発プログ
ラム早期刺激により多形性心室頻拍が誘発されている。
下図:キニジン治療後は、右室心尖部の三連発刺激に
よっても心室頻拍は誘発されなくなった。
(Garg A et al:Cardiovas Electrophysiol 9:642,1998)

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