1.Brugada症候群と早期再分極との関連
最近、Brugada型心電図の診断について、臨床心電学の研究者間に著しい混乱が認められる。下図はRieraらの論文から引用した心電図であるが、彼らはこの心電図に対して「eary
repolarization variant, pseudo Brugada type 2, pseudo incomplete right
bundel branch block (早期再分極、偽Type 2 Brugada型心電図、偽不完全右脚ブロック」と診断している。
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V2に明らかなR'波を認める。もしこれがうきゃくぶろっくによるもので在れば、V5,6に 幅広い,スラーを伴う明らかなS波を認めるべきである。しかし、本例のV5,6にはその ような所見はなく、V2のR'様の波はJ波であることが分かる。 Riera AR et al:CArdiologiy J 2008;156(1):4-16から引用 |
また、下図はBoineauがV1,2にST上昇とJ波を認める早期再分極として示した心電図である(前方早期再分極、anterior early repolarization)。
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anterior early repolarization variant (anterior ERPV) Boineau JP:J Electrocardiol 40:3.e1-e10,2007 |
これらは、何れも従来の考えからはsaddle-back型Brugada心電図と診断されるべき範疇に属する心電図波形である。しかし、早期再分極の概念の登場により、前方早期再分極として、早期再分極症候群の1型と見なされる傾向にある。
それでは、これらがBrugada型心電図と区別するにはどのような点に注意する必要があるかということが問題となる。そのためには、最近のBrugada型心電図についての考えを理解する必要がある。欧米の最近のBrugada型心電図についての考え方によると、コンセンサス委員会報告のType 1 (coved型)以外はBrugada型心電図と見なさない傾向にある。世界的に最も権威ある循環器学の教科書の1つであるBraunwald's Heart Diseaseにおいても、「Only Type 1 ECG is considered diagnostic for Brugada syndrome.」と記載されている。
早期再分極とBrugada症候群との間には次のような類似点がある(野上昭彦、Jpn
J Electro- cardiology 29(5):375,2009)。
1) 両者ともに健康な青壮年、男性に多く認める。
2) 心電図的特徴の日差、日内変動が著しい。
3) 家族歴に、両者ともに失神、急死例がある。
4) 特徴的な心電図所見が自律神経の影響を受け易い。
Rieraら(2008)は、早期再分極とBugada症候群との鑑別には下表の諸点に留意するべきことを指摘している。
/ | 早期再分極 | Brugada症候群 |
家族歴 | − | しばしば+ |
Ic群抗不整脈 への反応* |
ST上昇軽度 | ST上昇高度 |
QRS間隔不変 | QRS間隔しばしば延長 | |
期外収縮誘発(−) | 期外収縮誘発(+) | |
特徴的心電図所見 の出現誘導部位 |
肢誘導、胸部誘導 | 右側胸部誘導 (V1-3) |
R波の振幅 | 正常または増大 | 正常 |
PR間隔 | 正常 | 50%で延長 |
ST部の波形 | 上方凹の上昇 | 上方凸の上昇(coved型) |
*フレカイニド 10mg/kg/10分静注に対する反応 (Riera ARP et al: Cardiology J 15(1):4-16,2008) |
上表の中では、特徴的心電図所見の出現誘導部位と1c群抗不整脈薬静注時の反応が重要である。