Brugada症候群9タイトル

心室プログラム刺激(心臓電気生理学的検査、EPS)

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 Brugada症候群の臨床症状は失神発作ないし突然死です。これらの症状は多形性心室頻拍ないし心室細動により惹起されます。また、「植え込み型除細動器」が内蔵するホルター心電図機能の検討から、上記の発作の前に心室性期外収縮の出現頻度が増加することが明らかとなってきました。これらの心室性期外収縮の発生源は、ほとんどの場合、右室流出路であることも明らかとなりました。

 Brugada症候群で、心臓電気生理学的検査(Electrophysiological Study, EPS)を行い、心室のプログラム刺激を行うと、多形性心室頻拍ないし心室細動が高率に誘発されます。このような右室刺激により心室頻拍ないし心室細動が誘発される例は、その後の経過観察により心臓事故(心室細動、突然死など)が多発することも知られてきました。

 それで、このような例には植え込み型除細動器(ICD)による治療が、現在の所は唯一の治療法であると考えられています。そのため、Brugada症候群のハイリスク群においては、積極的に心臓電気生理学的検査を行い、心室のプログラム刺激を行い、多形性心室頻拍ないし心室細動が誘発されるかどうかを検査する方法が行われています。



 以下、Brugadaら、コンセンサスリポートなどによるこの検査法の適応、実施法などを説明します。

1.心臓電気生理学的検査法の適応
 心臓電気生理学的検査法の適応は下記の如くです(コンセンサスリポートの提案)
  
 1)有症状例における危険度評価  
  症状とは失神、多形性心室頻拍、心停止からの蘇生例をいいます。
 2)Brugada型心電図を示すが、症状が非典型的で、Brugada症候群であるかどうかが不明な場合、
 3)突然死の家族歴がある無症状Brugada型心電図例。

 なお、心室細動からの回復例ではEPSは不必要で、直ちにICD植え込みを行うことが必要です。他方、家族歴がない無症状なBrugada心電図例ではEPSは実施する必要がありません。

2.心臓電気生理学的検査法の有用性
  本法のpositive predictive valueは37〜50%、negativepredictive valueは46〜97%と評価されています。

3.心臓電気生理学的検査法の実施法
 右室内に挿入したペーシングカテーテルで600, 500, 450msec
のpacing cycle length で心臓を刺激しておき、最低200msec間隔
で1,2,3個の心室早期刺激を加えます。

4.心臓電気生理学的検査の陽性判定基準 
 次の諸所見の内、何れか1項目が認められ他場合に陽性と判定します。
  1) 心室細動の出現
  2) 多形性心室頻拍の出現
  3) 30秒以上持続する単源性心室頻拍の出現

5.心臓電気生理学的検査の臨床的意義
   Brugada 症候群の予後評価におけるEPSの意義については、Brugadaらのように極めて有用とする意見と、Prioriらのようにあまり有用でないとする意見との全く相反する2つの意見があります。
 
 Brugadaらは、今まで全く症状がない無症状群でも、EPSにより心室頻拍、心室細動が誘発可能な例では17.1%が、その後の経過観察期間中に心事故(多形性心室頻拍、失神、心室細動、急死)を起こしたのに対し、誘発不能例では2.2%のみが心事故を起こしたにすぎないことを報告しています。

 これに対し、Pryoriらは200例の検討で、誘発可能例と不能例との間に、その後の経過観察期間中における心事故の出現率には差を認めなかった事を報告しています。

 我が国では、EPSの予後的意義についてのEBM(evidence basedmedicine)に基づく大規模研究はありませんが、日本医大の新(アタラシ)博次先生が中心になって行った全国的な共同研究の結果からは、無症状例の予後は良好で、特に無症状例を対象にEPSを実施することの意義は有意義であるとは認められていません。

6.EPSによる心室細動誘発の実例
 添付fileに、桜田らの論文から引用したBrugada例におけるEPSでの心室細動誘発の実際の記録を示します。
心室刺激での心室細動誘発
Brugada症候群での心室プログラム刺激による心室細動の誘発
桜田春水:Brugada症候群の臨床電気生理、呼吸と循環49:437,2001)

   Brugada症候群については医学雑誌に多数の論文が発表されていますが、単行本としては下記のような書物が入手可能です。
 1.Antzelevitch,C., Brugada,P, Brugada, J,. Brugada,R, et al: The Brugada Syndrome、Futura Publishing Comp., New York, 1999
 2.森 博愛、野村昌弘:Brugada症候群の臨床、医学出版社、東京、2005
  (入手先電話番号:03-3812-5997 医学出版社)
 3.鎌倉史郎編著:Brugada症候群,Medical View社、東京、2009

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