Brugada症候群7タイトル

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薬理学的負荷試験

 Brugada症候群(6)で、Brugada症候群と非特異的Brugada ECG pattern(我が国で一般的に使われているBrugada型心電図)との相違点について説明しました。

 Brugada症候群と診断するためには、たとえ失神病歴があっても、コンセンサス分類のType 1の心電図所見 (coved pattern) が確認されなければなりません。植え込み型除細動器を植え込む場合も、Type 1心電図の確認が必要です。

 Type 2またはType 3の心電図を示し(すなわちsaddle-back型心電図)、病歴に失神発作があっても、それだけでBrugada症候群と診断することは出来ません。なぜならば、失神はBrugada症候群以外のいろんな原因で起こりますし、Type 2, 3の心電図波形は、日本人には比較的多く認められる心電図所見であるためです。

1.Brugada症候群における薬理学的誘発試験の適応:
  コンセンサスリポートは、次のような場合に薬物負荷試験を行うことを勧告しています。
   1) 心停止からの回復例
   2) 原因不明の失神例
   3) Brugada症候群の家族例
   4) saddle-back型心電図を示す無症状例。

2.薬理学的負荷試験の際の使用薬剤、使用量
 1)使用薬剤
   a) ajmaline:1mg/kgを5分以上かけて静注(半減期:数分)
   b) flecainide:2mg/kgを10分以上かけて静注(半減期:9.3±1.3時間)
   c) procainamide:10mg/kgを10分以上かけて静注(半減期:3−4時間)
   d) pilsicainide:0.5mg/kgを10分以上かけて静注(半減期:4−5時間)

3.薬理学的負荷試験実施上の注意
 薬理学的負荷試験はcoved 型心電図への変換を目的としていますから、まれに多形性心室頻拍、なかには心室細動が誘発される例さえ報告されています。

 従って、その実施の際には以下のような注意を払い、十分な対応を準備した上で実施する必要があります。
  1) モニター:12誘導心電図および血圧モニターが必要です。
  2) 救急時対応機器の準備:直流除細動器、二次救命装置

4.薬理学的負荷試験の中止基準
 薬理学的負荷試験の実施中に以下のような所見を認めた場合は、速やかに薬剤の静注を中止し、心電図をモニターしなければなりません。
   (1) 陽性所見の出現、
   (2) 心室性期外収縮を含む、心室性不整脈の出現 、
   (3) QRS間隔が注射前に比べて30%以上延長した場合、

5.重篤な心室性不整脈(心室細動など)が出現した場合の処置:
  イソプロテレノール点滴静注(1〜3μg/分)

6.薬理学的負荷試験の判定基準
  1) V1(and/or V2, 3)でJ波の振幅の絶対値が≧2mmの増加を示す場合を陽性と判定します。
  2) Type 2, 3からType 1に変化した場合も陽性と判定します。
 しかし、Type 3 からType 2に変化しても、陽性とは判定せず、判定を保留します。

 下図は アジュマリン静注によりType 2からType 1に変化した薬理学的負荷試験陽性例の心電図です。左が負荷前、右が負荷後で、アジュマリン静注後著明にV1,2でST部が上昇し、典型的なType 1波形に変化していることが分かります。

アジュマリン負荷試験
アジュマリン負荷試験(左:負荷前、右:負荷後)

 しかし、薬理学的負荷試験で初めて陽性所見を示した例(すなわちcoved型に変化した例)の予後は、自然経過でcoved型を示す例よりも良好であるといわれており、診断には役立ちますが、予後評価には余り役立たないとの研究成績が多く発表されています。

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