Brugada症候群 (4) 著明なJ波を示した45歳、女性例

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 Brugada型心電図の本質的な所見は、J-wave (Osborn波)の顕著化であることを述べました。一般にBrugada型心電図にみるJ波はしばしば鈍な波形を示します。しかし、先日、外来で比較的sharpなJ-waveを示す例を経験しました。

症例:45歳、女性
主訴:動悸
病歴:1週間前から動悸が時々出現するようになった。症状はそれほど強くなく、日常生活には差し支えはない。失神の病歴、急死の家族歴もない。胸部X線写真は正常、理学所見も正常。

 下図は本例の安静時の標準誘導心電図です。洞調律を示し、QRS軸は正常軸です。第2,3、aVF誘導でST低下とT波の平低化を認めます。しかし、本例は中年女性であり、何ら冠危険因子がないことから、女性にしばしば見る非特異的なST-T変化であり、虚血性変化によるものではないと考えられます。この心電図の最も特徴的所見はV1,2で、QRS波の終末部に低い陽性波を認める所見で、これはJ-waveであると考えられます。

J波が著明な45歳女性の心電図
安静時の標準誘導心電図(45歳、女性)

 下図は動悸発作時の心電図です。 P波の変形を認め、心房頻拍と考えられますが、その持続は短く、PP間隔にwarming down現象を認めますので、おそらく異所性心房頻拍であると思います。心室性期外収縮が記録されていますが、V1,2で主として下向きですから左脚ブロック型と考えられ、この期外収縮の起源は右室にあります。Brugada症候群では、期外収縮ないし心室頻拍は右室流出路起源が大部分であることが廣く知られています。

J波が著明な45歳女性の頻脈発作時心電図
心悸亢進発作時の心電図(45歳、女性)

 下図はV1、2誘導心電図の拡大記録で、J波を明瞭に見ることができます。ST部の上昇度は<1mmですから、欧州心臓病学会のコンセンサス分類ではType 3に分類されるBrugada型心電図です。 なお、Brugada型心電図におけるST上昇度の評価はST部の終末部で行い(ST部後半部)、基準線としてはいわゆる基線を用います(P波起始部と次の心拍のP波起始部を結んだ線)。

V1,2の拡大心電図
V1,2の拡大記録心電図(45歳、女性)

 本例の心電図は、上述のようにBrugada型と考えられますが、Type 3であり、かつ女性で、失神病歴がなく、急死の家族歴もないため、心事故をおこす危険は低いと考え、次の2点を注意するのみで、何ら積極的治療を行うことなく経過を観察することにしました。
 1)頻脈発作の悪化、失神ないしその前駆所見が出現すれば、直ちに来院するように指導。
 2)頻脈発作などで、他の診療施設を受診した際には、「Brugada型心電図」と診断されており、1群抗不整脈の禁忌であることを注意されている旨を担当医に告げるように指導。


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