Brugada症候群32タイトル

トップページへ Brugada(31)へ Brugada(33)へ

Electrical stormの定義と治療・予防

 Brugada症症候群の際には、心室細動、多形性心室頻拍が起こりますが、症例によってはこのような発作が反復出現する例があります。このように、危険な不整脈が嵐のように多発する現象をelectrical stormと表現します。 electrical stormは、次のように定義されます。下図はホルター心電図に記録されたelectrical stormの実例です。

electrical stormの心電図
ホルター心電図に記録されたelectrical stormの1例

   1.心室頻拍あるいは心室細動が頻発し、24時間以内に植えこみ型除細動器が3回以上作動する状況、又は
   2.心筋梗塞症の場合には、5分以上持続する心室頻拍あるいは心室細動が24時間内に3回以上出現する状況をいう。


 このようなelectrical stormの際の治療法としては、下図に示すように、イソプロテレノール点滴静注、デノパミン内服、キニジン内服などを総合した治療法が報告されています。これらの薬剤は我が国でも下記の如く使用可能です。
   1) イソプロテレノール:プロタノールS錠(1錠=15mg)
                  プロタノールL(注):0.2mg,1ml; 1mg,5ml。
   2) デノパミン錠:カルグート錠(1錠=5,10mg)
   3) キニジン:硫酸キニジン錠(1錠=100mg)
electrical stormの対処法
electrical stormの対処法(6例

  典型的なcoved型のBrugada心電図を示すが、現在は失神などの心臓症状を全く持っていない例が多くあります。幸い、Brugada症候群の不整脈発作(心室細動、多形性心室頻拍)はself-terminating(自然停止傾向)な性格を持っていますので、最初の発作が出現した時点で、直ちに植え込み型除細動器を植え込むという治療方針でよいのかも分かりません。しかし、最初の発作で致死的結果を招かないとの保証もなく、このような心事故の出現予測率は5%前後と考えられています。

 もし、貴方自身がこのような状態におかれた場合、単に経過観察のみで不安を感じませんか?このような例をどのように治療ないし経過観察するかは重要な問題です。そのため、coved型心電図を示す例の心電図所見を, saddle-back型ないし正常心電図に変換し、安全な状態にしておくような治療法が必要であると思います。しかし、残念なことにこのような治療法に関し, evidenceに基づいて立証された治療法は未だ確立されていません。

 しかしながら、下図に示す諸薬剤は、私どもが容易に入手できる薬剤で、Brugada型心電図 (coveed型) の上昇したST部を低下させる作用があることが実験的に確認されており、一部は臨床でもそのような所見が認められている薬剤です。勿論、これらの薬剤は保険適用はありませんが、このような方法もあることを患者さんに知らしておくことは我々医師の責務であると思います。

Brugada症候群のST上昇を低下させる治療に
効果が期待される薬剤

  Brugada 症候群の不整脈のfocusが右室、ことに右室流出路と右室Purkinje系にあることが知られています。そのため、このfocusの局在部位を臨床心臓電気生理学的検査法により定め、この部をcatheter ablationにより焼灼することにより不整脈の出現を抑止する試みが行われており、有効であったとする報告がなされています。

 問題点は、Brugada症候群における不整脈源は右室流出路の心外膜面に近い心筋層にあるため、内膜側からのablationでは効果が不十分ではないかとのおそれもありますが、これらの点も今後克服され、本症の致死的不整脈に対する根本的治療法が確立される可能性も十分期待できます。

Brugada症候群32end トップページへ
Brugada(33)へ