Brugada型心電図のST部に及ぼす各種抗不整脈薬の作用と分子機序
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Brugada症候群の最も重要な症状は心室細動ないし多形性心室頻拍で、そのような病歴を持つ有症候群に対する最も有効な治療法は植え込み式除細動器であることについては世界的に意見が一致しています。
下図は、慶応大学 三田村秀雄先生らが示した諸種の抗不整脈薬がBrugada型心電図に対して改善方向に働くか(ST改善;上昇していたSTの正常化)、あるいは悪化方向に働くか(ST悪化;ST上昇を顕著化する)という立場から分類したもので、併せてこれらの薬剤のST部への影響の分子機序について記載しています。
この表によりますと、ST部を改善する方向に働く抗不整脈薬としては硫酸キニジンとジソピラミドが上げられています。これらの薬剤は、ST部を悪化させるような作用機序も持っていますが、ST部を改善する方向への作用を併せ持っています。その他の薬剤は、ST部を悪化させます。
Brugada症候群の心電図ST部に対する諸種抗不整脈薬の作用 と標的イオンチャネル(三田村秀雄ら:呼吸と循環 49:445,2001) |
下図は、ピナシディール(pinacidil)投与により作成したBrugada症候群のモデル動物にキニジンを投与した際の心内膜面・心外膜面電位図および体表面心電図を示します。ピナシディール(pinacidil)は、ATP依存性外向きKチャンネルの開口薬で、外向きK電流を増加させる作用があるため、Brugada型心電図モデルの作成に使用される薬剤です。この薬剤は、外向き電流を増加させ、心筋細胞内電位のspike
and dome を著明にする作用があります。
ピナシディール(pinacidil)投与前(コントロール)とpinacidil 2.5μM および 5.0μM を投与した際の心内膜面・心外膜面電位図および体表面心電図を示します。Pinacidil投与によりST部が著明に上昇しますが、キニジン投与により、心外膜面電位の活動電位持続時間が著明に短縮し、体表面心電図においてST部が著明に上昇しています。しかし、キニジンを投与するとこの著明なST上昇は正常化しています。
Brugadaモデル動物心電図に及ぼすキニジンの影響 (Yan,GX,Antzelevitch,C:Circulation 100:1660,1999) |
下図の左側は、pinacidil投与により作成したBrugada型心電図モデルにおいて誘発されたphase 2リエントリーによる心室頻拍を示します。右側は、この頻拍がキニジン投与により消失しています。
Brugadaモデル動物に生じたphase 2 reentryに対する キニジンの効果(Yan GX,Antzelevitch C:Circulation 100:1660,1999) |
下図は、Brugadaモデル動物において心室プログラム刺激により誘発される心室細動(上図)が、ジソピラミドを静注しておくと出現しなくることを示しています。これらの実験は、硫酸キニジンやジソピラミドには、Brugada症候群における心室頻拍・心室細動などの治療ないし抑止効果があることを示唆しています。
プログラム心室刺激により誘発した心室細動に対するジソピラミドの 阻止効果(三田村秀雄ら:呼吸と循環 49:445,2001) |