Brugada症候群 (3) J波とは?

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J波についての詳しい解説

 Brugada症候群の心電図上の最も重要な所見はJ波の出現・顕著化とST上昇であることが明らかになりました。それでは、J波(J-wave)とは一体何でしょうか?
 
 低体温時に、QRS波とST起始部との間にやや鈍な陽性波が出現することは古くから知られていました。しかし、日常臨床ではそのような所見を見ることはあまりなく、時々、医学雑誌に冬山で遭難した人の心電図を記録し、著明なJ波を認めたことが報告されている程度で、あまり臨床医家の関心を集めませんでした。ところが、最近、Brugada症候群が話題になると共に、このJ-waveがにわかに注目されるようになりました。

 J波の歴史は古く、すでに1938年にTomaszewskiが、高度の寒さにさらされた男性で、QRS波とST早期部との間にslow, positive deflectionを認めたことを報告しています。また、1943年にはGrosse-Brockhoff, Schoedelがイヌで実験的にJ波の出現を認めています。

 Osborn (1953)は、アシドーシスを起こした低体温のイヌにおいて、この波を認めたことを報告し、このような状態では心室細動に極めて移行しやすいことを併せて指摘しています。この波は、また、過呼吸によるアシドーシスの是正により正常化することも明らかにしています。このOsbornの研究が注目され、J-waveの呼称としてOsborn波という呼び方も廣く行われるようになりました。下図はOsbornの原著から引用した図です。

 

  J-waveの名前の呼び方については、次のようないろんな呼称があります。
  1) camel hump sign (駱駝のこぶ)
  2) Osborn wave
  3) hypothermia hump
  4) dromedary wave (ひとこぶらくだ)
  5) イプシロン波
  6) デルタ波(この呼称は、WPW症候群のデルタ波と混同されますので、適当でない)


 それでは、J波はどのような病態で出現するのでしょうか?一般にJ-waveが出現する場合としては、以下のような諸病態があげられています。
 
  1) 低体温:これは最も古くから指摘されています。
  2) 中枢神経障害(くも膜下出血)
  3) 脳障害、脳死時
  4) 交感神経破壊を伴う頸部根治手術後
  5) 心停止後の蘇生術中
  6) 左側頸胸部交感神経刺激
  7) Brugada症候群(これは最近、明らかになりました)

 他方、J波の減高、消失は下記のような場合に認められます。

  1) 低体温に陥った人を暖めた際、
  2) 酸塩基平衡の正常化、
  3) 過呼吸(アシドーシスの是正)
  4) 脳死例へのイソプロテレノール、メタラミノール投与時。

 従来、J-wave出現の最も代表的病態と考えられてきた低体温時の心電図所見は次の如くです。
  (1) 洞頻度の進行性緩徐化
  (2) PR間隔、QT間隔延長
  (3) J波の出現。

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