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Brugada症候群の予後評価に用いる諸指標と信頼性
(心室遅延電位、T波交互脈、右室起源心室性期外収縮)
Brugada症候群における予後予測因子として用い得る臨床指標には以下のようなものがあります。
1.男性であること、
2.急死、突然死の家族歴があるkと、
3.失神(前兆を含む)、多形性心室頻拍、心室細動などの病歴があること、
4.基礎心電図がcoved型を示すこと、
5.薬剤負荷(1群抗不整脈薬)でcoved型の心電図を示すこと、
6.SCN5A遺伝子の変異があること、
7.心室遅延電位を認めること、
8.QT間隔の分散が広いこと(QT-dispersion)
9.T波交互脈を示すこと(T
wave alternans),
10. 右室流出路起源の心室性期外収縮の多発、
11. V1誘導のS波の幅が広いこと、など。
以下、これらの諸指標の心事故予測因子としての評価についての研究成績を御紹介します。
Brugada症候群に見られた心室遅延電位 (池田隆徳ら:Jap. J. electrocardiol. 23(2):152,2003) |
下図はT波交互脈の実例を示ます。T波の極性(あるいは波形、振幅など)が心拍ごとに交互に変化する所見で、心筋過敏性昂進の表現と考えられ、先天性QT延長症候群における危険な不整脈予知の重要な指標とされています。
T波交互脈 Pathogenesis and therapy of theidiopathic long QT syndrome.Schwartz,PJ. et al:(Hashiba,K.,et al: QT prolongatio and ventricular arrhythmias, NY Academy of Science,NY,1991) |
Brugada症候群における心事故発現予測指標の1つに「右室流出路起源の心室性期外収縮の多発」があります。Brugada症候群で心室細動発作出現前に、右室流出路起源の心室性期外収縮が多発する例があることが知られていました。
Brugada症候群の際に変異を示す遺伝子SCN5Aの発現は、左室よりも右室に多く、心内膜側より心外膜側に多く、また 右室ではことに流出路に多いことが知られています。本症候群の特徴的な心電図所見がV1-3などの高位右側胸部誘導に認められるのはそのためです。 下図は右室流出路起源の心室性期外収縮波形を示します。その特徴は「下方軸を示す左脚ブロック型」です。下方軸というのは、QRS軸が下方に向かうという意味で、垂直位心の傾向を示すことを意味します。
右室流出路起源の心室性期外収縮 (左脚ブロック+下方軸) (鎌倉史郎,他:心臓 35: 465, 2003) |
Brugada症候群の際にみる心室性期外収縮の形態を観察した研究があります。その結果は下記の如くです。
1) 左脚ブロック型+下方軸:78%
2) 左脚ブロック型+上方軸:11%
3) 右脚ブロック型+上方軸*11%
この結果からも分かるように、Brugada症候群の際にみる心室性期外収縮としては右室流出路起源のものが圧倒的に多く観察されています。
Brugada症候群における心室性期外収縮の形態 |
下図は心室性期外収縮発生部位別頻度と、臨床心臓電気生理学的検査で心室細動を誘発できた心臓内刺激部位別頻度を示しますが、何れも右室流出路側壁が最も多いとの結果が明確に示されています。
心室性期外収縮発生部位とEPSでの心室細動誘発可能な 刺激部位(Morita,H, et al: J. Cardiovas. Electrophysiol. 14:373, 2003) |
また下図は右室流出路起源の心室性期外収縮から心室細動が始まった実際の記録を示します。
右室流出路起源の心室性期外収縮から始まった心室細動 |
典型的Brugada心電図を示す例における心室遅延電位、QT間隔分散(QTdispersion) およびT波交互脈の出現率は下記の如くです。
1) 心室遅延電位:72.7%
2) QT-dispersion:15.2%
3) T波交互脈:27.3%、
後2者の出現率は低いとの結果です。
典型的なBrugada型心電図例における心事故関連指標の頻度(33例) (池田隆徳ら:Jap. J. Electrocardiol. 23(2):152,2003) |
これらの臨床的3指標の心事故出現の予測率を下図に示します。T波交互脈およびQT分散は感度が低く、予測精度も高くなく、心室遅延電位は感度が89%とかなり高く、予測精度もこれらの3指標の中では最も高い(73%)との成績でした。
Brugada症候群における心電図指標の心事故予測率(%) (池田隆徳ら:Jap. J. Electrocardiol. 23(2):152,2003) |