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Brugada症候群の予後(Brugadaら,63例,1998年)

  Brugada症候群に関して最も大切なことは、現在、当面している症例の予後がどうであるかということです。何故なれば、Brugada症候群の唯一の臨床症状が突然死、ないしその不全形としての失神発作であるからです。また、本症の治療法としては、「植え込み型直流除細動器(ICD, implantable cardiverter defibrillator)」が唯一の治療法ですから、これを実施するべきかどうかという事とも関連してきます。 この点を明らかにするためには、Brugada症候群ないしBrugada型心電図を示す例の予後を知ることが必要です。

 この点に関し、現在までに世界的に4つの大きい研究が行われました。

 本症候群の予後に関する最初の研究は、Brugadaらにより発表されました(1998)。下図は1998年に発表されたBrugadaらの研究成績を示します。Brugadaらは63例のBrugada症候群の予後を平均観察期間34±32カ月間調査しました。まず、Brugada症候群を有症候群(41例)と無症状群(22例)に分け、上記の観察期間中における心事故の出現率と臨床心臓電気生理学的検査法により心室のプログラム刺激を行った際における多形性心室頻拍ないし心室細動の誘発可能性について検討しました。 有症状群というのは、失神発作、心室細動、心停止などの病歴がある例です。心事故とは心臓性急死、心停止、心室細動、心臓起因と思われる失神発作です。


Brugada症候群予後(Brugadaら,1998)
Brugada症候群の予後(63例、観察期間34±32月)
Brugada,J.、et al: Circulation 97:457,1998

 まず、臨床心臓電気生理学的検査法により心室のプログラム刺激を行った際における多形性心室頻拍ないし心室細動の誘発可能性については、有症状群と無症状群との間に差を認めませんでした。心事故の出現率については、有症状群では34.1%でしたが、無症状群においても27.3%に心事故の出現を認めています。

 下図は この研究において、治療法別に見た不整脈事故の出現率および死亡率を示しています。この成績を見ますと、ICD植え込み群では、不整脈事故は起こっていますが、死亡例は全く認められていません。これに反し、薬剤療法群および無治療群では、それぞれ26.7%および30.8%と高い死亡率を示しており、薬剤療法群の予後は、無治療群のそれと全く同様です。

Brugada症候群の治療法と予後(1998)
治療法別に見たBrugada症候群の予後(63例、観察期間34±32月)
Brugada,J.、et al: Circulation 97:457,1998

  この研究成績に基づきますと、Brugada症候群においては、たとえ無症状であっても27.3%の心事故が出現しており、しかもICD植え込みのみが本症候群の唯一の治療法であるため、無症状例でも予防的にICD植え込みを考慮することが必要な場合があるのではないかと考えられます。しかし、この研究が発表されてから、我が国の不整脈研究者の間では、実際に臨床の場における経験と、この研究報告との間にはかなり相違があることが指摘されていました。

 実際、この研究における研究対象は、27例(42.9%)に突然死の家族歴があり、9例(14.3%)は家系にBrugada症候群を認める遺伝傾向が強い家族例です。従って、我が国に多い、遺伝関係が明らかでない弧発例に、この研究の結果をそのまま適用して良いかどうかは大きい疑問が残ります。

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